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マルチ読書 ジェームス・ジョイス「ダブリン市民」

思い切って、マルチでやってみた。

マルチといっても知り合いに壺を売るわけではなくて、積読になって久しかった古典小説を、マルチメディアな方法で読み進めるのを自分に強いたらけっこうよかったという話。

この難解で知られるアイルランドの作家ジェームス・ジョイスの本は一度も読んだことが無かった。寡作な人でほぼ唯一?とっつきやすいのがこの The Dubliners という15くらいの短編からなる本で、100年くらい前のダブリン市民の生活が描かれているやつと聞いていた。ちょっとだけ、短編のひとつの Araby というのが学生時代の英語学習にでてきて一部を読んだことがあったがなんだか日本でいったら明治時代の話で、内容も英語の表現も古臭い感じだった記憶しかない。

ジョイスというのは、ものの本によれば(というかWikiによれば)、なにやら「意識の流れ(stream of consciousness)」という表現法を先駆的に使った小説家らしく、よく理解してないが、自由に地の文章のなかに登場人物の独白みたいのが流れ出すように書かれているような技法らしい。

あれ、それって、主人公が自由気ままにその時に思いついた言葉から駄洒落が浮かんじゃってその駄洒落の連想で思考が展開していく、という我が考案の文学の新手法「駄洒落の流れ」(stream of pun)として応用ができないのだろうかと考えたが、それはだめだな。。。話が脱線しました。

     *     *

マルチと言ったのは、このアイルランドの小説、ちょっときばって安いペーパーバックの英語の原書を買ってあったのが積読になっていたが、なんとも進まない。短いのは10ページくらいの短編なので寝る前にちょっと読むかと思ったが、アルファベットの羅列ですぐに眠くなる。遅々としてすすまず積読になって3年くらい。いつか行ったことのないアイルランドに行ってパブめぐりしたいし、これは読むべきものとずっと思ってきていた。

それで、3月にはいって一心発起して思いついたのがこれ。まず、読まぬなら、走ったり運動するときにヘッドセットで聞いている音楽を「音読」にして、まずは聞いてしまおうと思う。そして、原書、和訳、最後に映像化されていたらそれをみてマルチに攻めようと。

まとめると、

  1. 英語音読を運動中にヘッドセットで聴く(10回くらい)→

  2. 気になった部分を原書でたどってみる→

  3. さらに和訳を読む→

  4. 映画化されていたら映画を観る


音読はすぐに見つかった。

Libriovox.org というのがボランティアが読んだのをただでダウンロードできた。なぜか米語発音なので聞きやすい。

そして、和訳はKINDLEですぐにダウンロード。

そして、ぐぐったら、幸い、ダブリン市民の中の中編の The Dead が映画化されていてYoutubeでみれることがわかる。末尾にそれら出典をリストアップしておきました。この映画があることを理由に、今回は The Dead (ダブリン市民の15章だったかな)にフォーカスしてマルチにやってみようと。

それで「マルチ読書」してみた結果。

まず、音読だけだと、10回聞いても、なんともよくわからない。毎回、断片的に情報が残り、なにやらホームパーティにいろんな人がきててそれでいろいろやりとりがあるのがわかったとか、最後に夫婦の会話で奥さんが昔のことを思って涙しているなとかわかるが、全体の流れがわからない。謎が残る。運動しながらなので、ところどころ、集中が途切れるということもあった。

それで謎が積みあがったころに、原書の活字をたどる。まずはその聞き知った個所を探すのが苦労だったが、ダンスとか、デザート、とか雪が降ってきたとかで探すとなんとなくたどりつけて、それで、探偵が殺人現場から犯行を推理するような作業でストーリーをさぐっていく。

それをある程度やると、それでもわからんこと多いので、和訳にいってしまう。そうすると、なるほど、そうだったかがここでわかってくる。訳の上手さや、あれれ?という箇所など、ちょっとわかっておもしろい。

最後に、だいたい筋がわかったところで、映画を観てみる。

ジョン・ヒューストン監督で奥さんかな?アンジェリカ・ヒューストンという大女優がまだ若々しく主人公の奥さん役ででている。ああ、こういうハウスパーティだったんだとやっと雰囲気がわかる。100年前のダブリンの雰囲気が素晴らしい映像で再現されている。けっこう原書の展開、会話が丁寧に忠実に映画化されているんだなあとわかる。好感。

そして、エンディングで、タイトルの The Dead、死人というのが、話にいろいろ死人はでてくるが、奥さんの若かりし頃に奥さんに恋して17歳で死んでしまった青年を指すということがわかる。

主人公のだんなはそれに最初は嫉妬するんだが、それからもっと深い生きていくことの不思議さに思いをはせていく。アイルランドでは珍しい雪が島全土を静かに覆っていく夜に、いずれ自分も死んでいくんだなあとか感慨に浸りながら。この最後の部分のイメージがしっとりと奥深い。

とてもいい話でした、The Dead。これを読めたので、アイルランドに訪問してパブでギネスを飲む資格を得れた気がした。

まあ、手間かかりますが、英語活字アレルギーとかを克服する手段としてありかなと思いました。

ありがとう音読ボランティア、そしていい訳書と、映画化。ご関心あれば一度お試しあれ。いいですよ。  ■

(情報源)

音読: Public Domain の音読(ボランティアが読んでいるあおぞら文庫みたいなもの。なぜかアメリカ訛りで聞きやすい)

https://librivox.org/dubliners-by-james-joyce/


原書: James Joyce "The Dubliners"

和訳: 安藤一郎訳「ダブリン市民」(昭和46) グーテンベルグ21

映画:  "The Dead" (1987) John Huston 監督

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