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第19話 リハビリ11 2021年8月12日 さようなら、外脛骨

 昼まで寝る。朝食の記憶なし。
 昼食後にリハビリ。初回以来久しぶりにリハビリテーション科で筋トレと松葉杖での歩行。
 流れでピアスの話に。僕は高校時代に安全ピンで開けて、その後いくつか開けて、斜めに空いていたので一度塞ぐまで待って、最終的に病院で2つ開けてもらった。30過ぎてピアスは痛々しいなと気づき外したものの穴は塞がらず。というような話をするとトレーナーに「12個開けていました」と言われてびっくり。過去に坊主にしてスポーツ観戦とビアガーデンが趣味で、ピアスは12個も。やはりパンクなのか。これで革ジャンでも着てだるそうに煙草を吸えば完璧だ。
 自然を装いながらトレーナーの耳たぶを確認するが穴どころか跡すら残っていない。花京院典明のように小さい耳たぶを口の中でレロレロレロレロと弄びたい気持ちを押し殺す。
「でも全然痕が残ってませんね」
「医療関係に勤めるために美容外科で塞いだんですよ。何万もかかりました。でも実際勤めたら、ピアス開けてる人何人かいたんですよね」と笑う。
「今からでもまた開けたらどうですか」と言うと「金属アレルギーもあるし、どうでもよくなっちゃいました」と笑う。
「僕も金属アレルギーありますよ。腕時計とかすぐ肌がぐちゃぐちゃになります」
 終わりに計画書なるものを見せられる。そこには病名にリハビリの計画やどうすれば退院になるか、家族の有無等々が書かれていた。当然そこには僕の名前があり、その隣には生年月日が書かれている。
「あっ、誕生日来週なんですね」
「そうですね。まあとくになにもしないんで、どうでもいい感じですよ」
「じゃあ私がここでお祝いしますよ」とお世辞を投げてきたので僕も「期待してます」と返しておく。明日から一人で来てもいいと言われる。

 部屋に戻り読書をしていると高橋優がイヤホンをせずにテレビを見ていたので「ここ一週間ぐらいイヤホンしてないけど、なんでしないの?」とカーテン越しに質問してみた。「すみません」と返される。看護師が来たらミュートにする理由も訊きたかったがやめておいた。
 イケメンが足りなくなった薬を持ってくるがミリ数が違う。訊くと「ミリ数が違っても影響はない」とのこと。訊いてくれてありがとうございますと礼を言われる。

 シャワールームに600ミリリットルのボディソープが放置されていたので自分のボトルに移し替える。ちょうど切れるところだったのでありがたくいただく。共用患者用と書かれているので貰っても大丈夫だろう。おそらく。一応看護師に「忘れ物ですよ」と伝えたが「病院のなので置いてて大丈夫です」とのこと。

 一日に二度、清掃員が病棟にやってくる。トラブル回避のためだろうか、病室に入る際に「これから清掃に入らさせていただきます。失礼します」と挨拶をし、カーテンを開ける際に「ベッド横のゴミ箱回収させていただきます。カーテンを開けさせていただきます」と声を出し、ゴミ箱を直す際に「ゴミ箱を返却させていただきます」と言い、床を拭いて病室から出る際に「清掃終わりました。失礼します」と挨拶をする。
 カーテン開けてゴミ箱回収しゴミ箱を直し床を拭きカーテンを閉じるという動作に声を発するのでそのたびに体を起こし「はい」と返事をするのがとても面倒くさい。とはいえ無視するのも失礼だし、綺麗にしてくれているわけなので「ありがとうございます」は大人として言っておきたい。
 主治医がやってきて「18日にギプス巻き直して踵をつけます」とだけ言って去っていった。最近見かけるようになった物静かそうな若い男性介護士に初老が「車椅子に乗りたい」と訴え、介護士は「資格がないのでできません」と断る。
 夕食後にお菓子を食べると高橋優も食べる。高橋優が食べると僕も食べる。入院生活は圧倒的に甘いものが足りない。たまに果物が出る日は涙が出そうになる。

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