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web3時代における学術系クラウドファンディングの可能性

web3時代を見据えた取り組みに注目が集まるようになりました[1]。前回紹介した「VitaDAO」をはじめ、アカデミア領域でも関連プロジェクトが続々と立ち上がっています[2]。このような流れのなかで、学術系クラウドファンディングはどのようにアップデートできるのでしょうか。この記事では、国内外における先行事例をヒントにweb3時代における学術系クラウドファンディングの可能性について考えます。

web3とは - 信頼から真実へ

web3はコンピューター科学者・Ethereumの共同創業者のGavin Wood氏が2014年に提唱した概念です。

1990年以降、インターネットの登場により私たちは世界中から情報を得る(read)ことができるようになりました(web1)。Yahoo! JAPANはweb1時代の象徴的な存在です。

2005年以降になると、ブロードバンドの普及により回線速度が大幅に向上し、ブログやSNSを通じて誰もが簡単に情報発信(read-write)できるようになりました(web2)。受け取る情報の個別最適化を実現したweb2時代は、web1時代よりも「情報の分散化」が進んだと言えますが、その一方で、サービス利用履歴などの個人情報は少数のテック系大企業に集約されていきます。これは「価値の中央集権化」と呼ばれています。集められた個人情報の取り扱いが現在社会問題となっていることをご存知の方も多いでしょう。

こうしたなか2021年以降、ブロックチェーン技術の発展に伴い、世界的に「価値の分散化」を目指したムーブメントが起きています(web3)。発信した情報を個人が所有(read-write-own)する可能性に注目が集まっているのです。

Gavin Wood氏はweb3の思想を「Less Trust, More Truth」と表現しています[3]。たとえば私たちは、SNSのダイレクトメッセージが秘匿化されているかどうかを自ら検証することはできません。運営会社への「信頼(Trust)」を前提にサービスを利用していることになります。このような信頼への依存を減らし、ダイレクトメッセージが秘匿化されているという「真実(Truth)」を検証可能にしていく動きが、web3の目指す世界観であると言えます[4]。

web3時代のクラウドファンディング

現在主流のクラウドファンディング・プラットフォーム(CFP)は、web2時代初期の概念をもとに運営されています。現在でも新しい資金調達の方法として注目を浴びていますが、web2時代のCFPには主に下記の課題があると指摘されています[5-8]。

  1. 決済コスト:既存のCFPでは、Standard fee + Processing fee の二階建てで手数料が発生します。前者はサイト運営会社の、後者は決済代行会社の手数料で、USでは5%+3-5%、日本では12-17%+3-5%が一般的です。この構造のデメリットは、チャレンジャーの居住国により決済コストが変動することです。私たちの運営する「academist」でも、海外のチャレンジャーに送金する際はプラスαの手数料と時間を要しています。

  2. 詐欺リスク:CFPで集まった資金はチャレンジャーの銀行口座に振り込まれることがほとんどです。チャレンジャーに一度資金が渡ると、サポーターはその利用用途を検証できません。チャレンジャーへの信頼をベースに成立していると言えます。

  3. チャレンジの自由度:現在はそれぞれのCFPがプロジェクト掲載基準を設定しています。掲載ジャンルを限定したり、最低手数料を設定したりなどその形はさまざまです。プラットフォーム側の審査によって、プロジェクトへの信頼がある程度担保できる一方で、イノベーティブなアイデアの芽を摘んでしまっている可能性もあります。

  4. 知名度依存性:クラウドファンディングで成功するには、プロジェクトで実現したいことに加え、名前や所属、肩書き、顔写真、過去の活動実績、SNSのアカウントなどの個人情報を公開し、よりたくさんの人たちから信頼を獲得することが重要です。実際に、友人・知人やTwitterのフォロワー数に比例してたくさんの資金を集められる傾向にあります。web2時代のクラウドファンディングは「信頼の可視化」ツールと言えるのかもしれません。

上記を解決する手段が「Blockchain-Based Crowdfunding」であると言われています。このweb3時代のクラウドファンディングでは、サポーターは支援の対価にプロジェクト独自のトークンを受け取ります。トークンを保有することで、プロジェクトの意思決定に関わることができたり、トークン価格の上昇に伴い利益を得たりなど、プロジェクト特有のメリットを受けることができます。

トークンの移動には国境がないため、1. 決済コストの削減が期待できます。特に国際送金にかかる工数の減少により、プロジェクトのグローバル化のハードルが下がります。また、支援金額の動きはBlockchain上に記録され、サポーターは支援金額の利用用途を自ら検証できるようになるため、2. 詐欺リスクの低下につながると考えられます。

さらにBlockchain-Based Crowdfundingでは、SmartContractを活用することで、自分の支援した金額が目的と異なる用途に使われそうになった場合に、支援金額を回収するという設計もできます。実際にDAOhaus Yeeterでは、プロジェクトの提案に対して「ragequit」して資金を引き出す仕組みを実装しています。これはプロジェクト開始時のチャレンジャーの信頼を可視化するのではなく、アイデアだけでプロジェクトを開始し、その進捗(真実)の積み上げによって信頼を得ていく考えかたです。この仕組みを実現できれば、3. チャレンジの自由度は高くなります。またBlockchain-Basedの場合は、特定のCFPではなくさまざまなCFPに同時にプロジェクトを掲載できるようになるため、4. 知名度依存性にも貢献することができます。

現在はweb2からweb3への移行期であり、世界各国のプレイヤー[9]が新しいスタンダードを模索している段階です。昨年末にはweb2時代のクラウドファンディングを牽引してきた「Kickstarter」がweb3への移行を宣言するなど[10]、大きなニュースもありました。近い将来、業界の常識が大きく変わる可能性もありそうです。

学術系クラウドファンディングへの展開

それでは、web3時代の学術系クラウドファンディングはどのようにアップデートできるのでしょうか。ここでは私たちの運営する「academist」が抱える課題を起点に考えていきます。上記の1〜4ももちろん当てはまりますが、学術系における最重要課題は「サポーターのインセンティブ設計」と位置付けています。

私たちは2014年4月以降、一定期間内に目標金額達成を目指す「スポット支援型」を運営してきましたが、クラウドファンディングのチャレンジ期間だけでは、サポーターが研究者のことを知る機会が少なく支援につながりにくい(4. 知名度依存性)という課題を抱えています。

プロジェクトページを魅力的に作成したとしても、研究者と全く接点のない人からすると「本当にこの研究をやり切るのだろうか?」という疑問が残ります。それを払拭するには、研究者が研究活動を定期的に発信する場をつくり、サポーターの信頼を獲得する時間をつくることが必要です。そこで、2018年11月にファンクラブのような形でサポーターを募る「月額支援型」の仕組みを導入しました[11]。

現在もサポーターと研究者の距離を近づける方法を模索しており、SNSの活用や過去サポーターへの周知に加え、Youtube Liveイベントやラジオ局との提携、academist Prizeの開催など、宣伝オプションを増やす取り組みを進めていますが、まだまだ十分とは言えません[12]。

web2 × トークノミクスを考える

サポーターと研究者の距離を近づけるにはどうすれば良いのでしょうか。そのヒントは「古くからのサポーターであることが価値化される仕組み」の導入にあると考えています。その先駆けとなる取り組みが、2019年3月にローンチされた次世代型クラウドファンディングサービス「FiNANCiE(フィナンシェ)」です。

一般的なクラウドファンディングサービスとの違いを見ていくために、プロジェクトの事例を紹介します。先日まで信州ブレイブウォリアーズでは、初期サポーターに「ポイント(pt)」を販売していました。

サポーターはクラウドファンディングと同様に応援メニューを選んで支援をします。1pt=1円なので、1000pt=1000円、10000pt=10000円という形で応援することになります。目標金額のない「All-In型」です。

2022年6月13日の段階で、121名から合計2,010,000pt(=2,010,000円)の支援が集まっていました。サポーターは支援pt数に応じたお礼を得られることに加え、購入したポイントの割合だけトークンを受け取ることができます[13]。

たとえば、合計1,000,000pt集まっているなかで10,000pt支援している場合、そのサポーターは支援総額の1%を担っていることになります。この場合、配布総数2,000,000トークンのうちの1%に相当する20,000トークンを得ることができます。極端な話ですが、サポーター数が1名の場合、2,000,000トークン全てがその人にわたるということです。

サポーターになると、プロジェクトのコミュニティに参画することができます。関係者どうしでコミュニケーションをとれる機能がアプリ内に実装されており、アプリを通じてプロジェクトオーナーとやりとりできたり、プロジェクトの意思決定に関わったりできるようになります。

トークンを購入するインセンティブとしては「1. 応援できる、2. コミュニティに参画できる、3. トークンを売買できる」の3つが主に働きます。これから信州ブレイブウォリアーズの知名度があがり、チームの活動に関わりたい人が増えると、トークンの価値は上がります。すると、最初から応援していた人たちはトークンを流通させることで、金銭的メリットを得ることもできます。実際にトークンを手放すかどうかはともかく、古くからのファンであることが価値化される仕組みは、FiNANCiEの重要な特徴です。

どのトークンをどう発行してどのようにサービス内で経済圏をつくるのか、サービス内外における価値交換をどう設計するかという「トークノミクス」は、web3時代のアプリケーションをつくるための重要なテーマであり、さまざまなプレイヤーが最適解を探しています。

web3時代の学術系クラウドファンディングの可能性

web3時代のクラウドファンディングのありかたは、主にweb2時代の課題を解決することを目的に模索されており、さまざまなプレイヤーが最適解を模索している段階です。業界全体の課題は、学術系クラウドファンディングの抱える課題と必ずしも一致しないのですが、今後も業界全体の動向を追いながらヒントを得ていきます。

アカデミストとしては、まずは現在進行中の月額支援型クラウドファンディングの拡大を進めていきます。そして次に、学術系クラウドファンディングにおけるトークノミクスを構想していきます。研究者支援におけるトークノミクス、そしてその先にある「DAO(自立分散型組織)[14]」の構築はアカデミストのVisionに直接関わるテーマですので、研究者やサポーター、web3 × アカデミアに関心のあるさまざまなステークホルダーと一緒に考えていきたいと思っています。

私たちは今後とも「Open acadmia」の実現をVisionに活動していきます。開かれた学術業界は、研究者が研究のVisionを発信し、そこに共感する仲間が集い、資金や情報が流通し、多様なステークホルダーと共に世の中を変えるムーブメントが生まれる社会です。一緒にVision達成を目指す仲間を随時募集しておりますので、私たちのVision・Mission・Valueに共鳴いただいた方は、ぜひこちらよりご連絡ください!

参考資料

  1. NFTホワイトペーパー(案) Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略(2022.03.30)

  2. Web3は科学を救うか 資金調達や情報共有、海外で始動(2022.06.16)

  3. Web3 - 所有と信頼のゆくえ(2022.03.14)

  4. web3関連の参考資料

  5. Role Of Blockchain Technology In Crowdfunding

  6. A New Era of Crowdfunding: Blockchain(2019)

  7. How to Make the Most of Crowdfunding on the Blockchain(2022.02.22)

  8. The Benefits of Web3 Crowdfunding(2022.5)

  9. StartengineCrowdfundcuresMeta-fundTecraGamestarterCrowdheroSeedonDAOhaus Yeeter など

  10. The Future of Crowdfunding Creative Projects(2021.12.09)

  11. アカデミストのこれまでとこれから【前編】 - 運営するなかで見えてきた学術系CFの本質とは(2021.10.18)

  12. 学術系クラウドファンディングでは、研究者をサポートすることにより研究進捗レポートやサイエンスカフェ参加権、論文謝辞にお名前掲載、個別ディスカッション権などのリターンを受け取ることができます。他にもさまざまなリターンを実施してきたのですが、サポーターの方々はリターンを求めるというよりも、研究者を応援したい気持ちで支援することがほとんどです。研究が成功したか / 失敗したかではなく、自分が支援したお金でどのような研究を、なぜ行い、何が明らかになったかを可能な範囲で教えてほしい。これがサポーターが研究者に求めていることです。

  13. トークン販売時に獲得できるトークン数について解説(2021.01.20)

  14. DAOに関しては別の記事で整理します。

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