受け継いだ感情を新しい家族に。

《お前なんてもうしらない》

【激情】
1 はげしく怒ること。また、その怒り

冬至、凍てつく寒さが心を芯まで冷やす。近場の公園では色とりどりの帽子を被った子どもたちが走り回っている。まるで、晴れた日に舞降る流星のよう。

《どうしてそんなことするんだ?そんな子に育てた覚えはない》

【哀情】
1 心が痛んで泣けてくるような気持ち

2 嘆いても嘆ききれぬ思い

公園の近くには川が流れている。長く、果てしなく続いてるように感じさせる。遠い存在になった人がすぐ側にいるような錯覚をさせてくれる。だから、不思議と週末には川辺に来てしまう。何をするでもなく、ただただ頭の中を真っ白にして座っているだけ。

「昔は駄菓子屋とバッティングセンターがあって、よく遊んだんだけどなぁ」

「そうね。今は公園になってしまったけど、放課後いつも集まってた」

冬のベンチは座りづらい。凍っているから、ずっと居るとお尻が固まって動けなくなる。それでも少しづつお尻の痛みも治まってきて、肌寒く感じる冬空さえも暖まりを感じるようになる。この公園のベンチが与えてくれる温もりは冷えた体をも溶かしてくれるように感じる。

「日がくれるまで遊んだし、色んなところ冒険しては帰り道が解らなくなってよく叱られた」

「似てるのね」

子どもたちは、自分の尻尾を追いかける犬のようにぐるぐる同じところを走り回り続ける。自分がいた場所をすぐ忘れるのかと思える同じ行動に、諸行無常の世の中に数少ない常を感じさせるほどの趣深さを含んでいた。

「その時は分からなかったけど今思えば、心配もあったんだな」

「なってみないと分からないものよね」

ピタッと一人の子どもが止まって、満遍の笑みで手を振る。ベンチに座る男女もそれに返報するように小さく手を振る。

「思春期になってたくさんぶつかって、見放されて。縁は切れたと思ってたけど何だかんだで心配されてた」

「あの子も絶対あなたとぶつかるわよ」

砂場には、お世辞にも綺麗とはいえない煙突から窓の1つ1つが見事に表現されたシンデレラ城が築き上げられている。城の周りには、その世界観には不釣り合いの大きな団子が規則正しく並べられている。王子の現るお城と家族ごっこの跡が残るこの砂場は、夢見がちな男の子と現実的な女の子のフィーチャリングなのだろう。

「おとうさーん!おかあさーん!」

「よし。そろそろ行こうか」

砂場から思いっきり飛び出して、お城にぶつかって崩してしまったことも気にせず、家族のところまで駆けてきた少年。親から受け継いだ感情を新しい家族に受け継いでいく。

「その時は全力でぶつかって心配してやるさ」

寒がる手をぎゅっと握る。その小さな手からも微力ながら握り返してくるのがわかる。

《産まれてきてくれてありがとう》

【愛情】
1 深く愛し、いつくしむ心

2 異性を恋い慕う心

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