おやじパンクス、恋をする。#237
気が付いたとき、俺は雄大と抱き合うみたいな体勢でソファの上に転がっていた。
ふかふかしていて、このまま寝ちまいてえなあと思うようなソファ。
耳栓が徐々に外れていくみたいに、すぐそばで聞こえているわめき声がだんだんボリュームを上げていく。「……さねえ、許さねえぞこんガキが、おい嵯峨野、てめえなにしてんだ今すぐポリ公呼んでこいつら連れてかせろ……」我を忘れて叫ぶ佐島さんだったが、言葉とは裏腹に壁に身体を押し付けるみてえに遠のいていて、ビビっているのは明らかだった。
「マサさん……なんで止めるんだよ」雄大の声。「こんなんじゃ、俺、すげえ情けねえじゃねえかよ」
俺は体を起こし、ゆっくりと、狙いを定めて、自分の手の中にある雄大の頬骨を、思いっきりぶん殴った。
「うるせえよ、どっちにしろ情けねえよバカ野郎が!」
雄大のバカをなんとか止めることができて、少しホッとしたからだろう、頭んなかで、いろんな想像がグルグルした。
店、手放すことになるのかなあとか、タカは力があるから酒屋じゃなくてもやってけるかなとか、彼女に秘密にしといてやっぱりよかったとか。
逮捕、起訴、執行猶予……面倒臭えが仕方がねえ、親父もお袋もどんな顔すんだろう。
「おい嵯峨野! 早くしろよ何もたもたやってんだ」喚く佐島さん。
俺が観念して目を閉じた時だ。嵯峨野が変なことを言いやがった。
「いや、それが佐島さん、内輪揉めはそっちで処理してくださいって」
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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