おやじパンクス、恋をする。#238
嵯峨野がそう言って携帯を佐島さんに差し出す。
佐島さんはポカンとして、それでも携帯を受け取ると耳に当て、「もしもし?」と言う。それから「はあ?」とか「いやいや何を言って」とか、なんやかんや揉め始めた。
何がどうなってんのか分からねえが、嵯峨野の言葉、内輪揉めがどうのってやつに、俺自身も違和感を覚えた。民事不介入がなんだって話は知ってるが、この状況で警察が動かねえなんてことがあるだろうか。だいたい、内輪揉めと言えばそう言えなくもねえんだろうが、そんなレベルはとうに超えてるだろ。
「この馬鹿野郎が、それならこっちから行ってやるから待ってろ!」
佐島さんは怒鳴って電話を嵯峨野にぶん投げた。
「おいてめえら、こいつら連れて警察まで行くぞ!」そう佐島さんが大声で言うと、指示された社員たちがゾロゾロと中に入ってくる。
そして俺と雄大、そして俺を追ってきてたらしいタカをあらためて捕まえると、「さあ、行くぞ」と佐島さんは低く言って、子分どもを引き連れてVIPルームから出ていこうとした。
絶体絶命。八方ふさがり。大殺界。まさにそんな状況の中、これで俺の人生も終わりかな、皆を巻き込んじまって申し訳ねえなんてなんて思ってた。
その時だった。
まるで耳元で囁かれたみてえな独特の響きを持って、誰かの言葉が聞こえた。
「おめえ、随分と偉くなったもんだなあ」
……
……
ドスのきいた、だけどもどこかお茶目な感じの、だけどもやっぱりドスのきいた声。
誰だ? 俺は声の主をキョロキョロと探した。
そして、見つけた。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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