おやじパンクス、恋をする。#239
ギラつく照明のせいで影みたいになっているが、VIPルームの入口を塞ぐように誰かが立っているのだった。
佐島さんも誰だか分からねえんだろう。目を細めて、顎を突き出すようにしてその影を伺い、「誰だあ?」と言った。
「よお、佐島。忘れたとは言わせねえぞこのガキぁ」
次の瞬間、その影の後ろからワラワラワラと人が雪崩れ込んできて、今まさに出ていこうとしてた俺らを取り囲んだ。
日本の警察じゃこうはいかねえ、まるで海外産FPSのキャンペーンモード、特殊部隊に包囲されたのかと思ったが、やがてそいつらの奇妙な格好に気付いて俺は呆然としてしまった。
何しろ奴らが揃って着てたのは、クラブにはどう考えてもなじまねえ、「ハッピ」だったんだから。
声も出ねえ俺らの前に、渋い声の影が一歩踏み出た。
照明の加減が変わってその顔が顕になって――――ぶっちゃけその瞬間の気持ちとしては、俺も佐島さんもまったく同じだったんじゃねえかな。俺の(あるいは佐島さんの)頭に浮かんだのはこの疑問、つまり――
なんでこんなとこにこの人がいるんだよ!
だ。
どう見てもその爺さんは神崎達巳その人――つまり、カズの親父さんだった。
そして、そうだ! なんか見覚えのあるこいつらのハッピは、カズが次期社長を任されることになってるあのスーパー銭湯の制服じゃねえか!
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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