おやじパンクス、恋をする。#204
彼女のことが心配だった。
辛い気持ちで彼女がいるなら、それをどうにしかしてやりたいと思った。
俺が必死で励ませば励ますほど、彼女は涙声になってって、うん、うん、ありがとうと答えた。
人間って難しいよな。
周りがみんな敵、誰一人信頼できねえみたいな状態だと意外と強く突っ張れるもんなのに、反対に優しくされるとよ、思わずほろっと泣きたくなる。
太陽と風のお伽話みてえなもんかな。人間、あったかさにはどうしても心を開いちまうんだろう。
彼女がぐじゅぐじゅと鼻をすする音を聞きながら、雄大、大切な姉さんが泣いてるじゃねえか、どこで何してんだよ、とか考えた。
心配事があると何をしてたってそれを考えちまう。
いつも家を出るのは夕方で、今はまだ昼過ぎだ。普段なら部屋着のままゴロゴロして過ごすところだが、雄大のあの丸い顔が頭をよぎって、リラックスできやしない。
バラエティ番組を見てても全然笑えねえし、じゃあ昼ドラでもってチャンネルを変えても、内容がさっぱり入ってこない。
仕方ねえって腹をくくってシャワーを浴び、心当たりも全然ねえが、とにかく町に出てウロウロしてみようと汚えジーンズに足を通し、前にボンが作ってくれた69の店のロゴがプリントされたTシャツに頭を突っ込んだ時、iPhoneがブルブルとバイブってる音が聞こえてきた。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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