おやじパンクス、恋をする。#030
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
再び店に現れた俺らに、おばちゃんはちょっと怯えた顔を見せた。口では「あらあ、いらっしゃいませ」とか言いながらも、その表情はしつけえ新聞勧誘員を見るような感じだった。
まあ、そらそうだよな。さっきたらふく飯を食った客が、三十分もしねえうちに戻ってきたんだから。
「お茶でもしようと思ったんだけど、他に店がなくてさ」ボンが言って、おばちゃんはちょっとだけ安心したような、疲れた笑みを見せた。見れば既に客は誰もいなくて、皿とかもすっかり片付いてて、おおかたもう昼休み気分だったんだろう。
何か文句つけに俺らが戻ってきたわけじゃないって事がわかったところで、招かざる客だってのに変わりはねえってわけだな。まあ、いいけど。
おばちゃんがメニューを取りに厨房の中に消えている間に、俺たちはまた店の奥まで進んでいった。俺と涼介はさっきと同じ場所に座ったが、ボンとタカは向かい側ではなくて俺らの右隣に、つまりいっこ隣のテーブルに座った。
いや、まあ、全員が窓の外を見ようってんだからこうなるんだろうが、カウンターでもねえのに四人が横並びで座ってるってさすがに不自然過ぎねえか?
だけどおばちゃんはもうどうでもいいのか、お茶くらいなら自販機で買って飲めばいいのにっていう顔を隠そうともせず、面倒臭そうにメニューを持ってきた。
涼介は当たり前にビールを頼みやがったが、置いてないってことだったので、結局アメリカンを四つ頼んだ。おばちゃんはそそくさと引っ込んでった。
ああ、どっちかっつうと丁寧な対応の店員って印象だったのになあ、人間、予想外の出来事があったときこそ素が出るもんだなあ。
まあいいや、そんなことより彼女の部屋だ。
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