おやじパンクス、恋をする。#207
営業はしてるはずだが、入口付近に人気はない。
湿気のせいかひどく生ぬるい感じの風が吹いていて、まるでホラーゲームのオープニングだ。
薄暗い夕暮れ時、汚えビルを前に立ちすくむ主人公、ってか。
苦笑いしながらバイクを止めて、入口に向かった。時代遅れな磨りガラスが嵌った扉、ドアノブに手をかけて回しながら、そういえばここの社員は、俺と雄大との関係を知っているんだろうかと今更考えた。前に雄大はこんなことを言っていたっけ。
ーー笑い事じゃねえすよ。俺だって、あんたらと繋がってることバレたら何されるか――
ちょっと待てよ、と思った。
葬式の時、俺はそんなことすっかり忘れてた。雄大が車ん中で死んでたらどうしようって、それで彼女が悲しんだらどうしようって、そんだけさ。
だがあのとき、彼女と一緒に奴の車に向かうところを、その後車内で二人で話してるところを、社員の誰かが見てたとしても何の不思議もない。
雄大に俺といることを気にしてる素振りはなかったから考えもしなかったが、あの時に俺と雄大が知り合いだってことが奴らにバレたんだとしたら、そしてそれが原因で姿をくらませるしかなくなったんだとしたら。……実際、あいつが居なくなったのは他でもねえ、あの葬式の後からなんだ。
――いや、バカバカしい。
そもそも俺と雄大が知り合いで何の問題があるんだ。話の発端は涼介がパーティに乱入してゲートキーパーと揉めた事だ。そんなもの彼女がしゃしゃっと解決しちまったじゃねえか。今更何を気にする必要があるってんだ。
だいたいあいつの話は、嵯峨野が彼女を狙ってるとかいう件もそうだが、なんつうか思い込みが激しいっつうか、信ぴょう性がないっつうか……。
そんな事を考えていると、扉の向こう側がガヤガヤし始めて、俺がまだ握ってたドアノブがビルの内側から回されて、直後、とんでもねえ力で引っ張られた。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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