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おやじパンクス、恋をする。#208

「うわっと」

 俺はバランスを崩し、けんけんしながらビルの内側に入っていき、何か知らねえ黒い塊にぶつかって床に転がった。

 咄嗟に目に入ったのはそこに敷かれた分厚い絨毯。ふかふかして高級そうな、血色の絨毯。

「おや、これはこれは」

 どっかで聞いた声が後頭部に降ってきた。

 俺はゆっくりと顔を上げて、振り返った。一番前に立ってたのは身体のでけえプロレスラーみたいなスーツの男で(たぶんドアを引っ張ったのはこいつだろう)、その後ろに声の主、こないだ葬式で会った佐島さんが立っていた。

 俺は軽く頭を下げると、慌てる素振りを絶対に見せないように立ち上がると、あらためて佐島さんの前に出て、軽く頭を下げた。

「寺坂です。こないだ、梶さんの葬式で……」

「もちろん覚えてますよ。ちゅうか、その頭、忘れるはずもねえやね」

 何だろう、あのチラシの一件がそうさせるんだろうか、一時は好印象を持ってたおっさんだが、何だか言葉に刺を感じて、嫌な気分になった。

「で、どうしたんですか今日は、わざわざ我が社まで出張ってらっしゃって」

「いや……」

 俺はここに来て躊躇した。俺の口から、雄大のことを聞いていいものか。

 けど、だからって手ぶらで帰るわけにもいかねえ、思い切って言った。

「雄大が……梶雄大ですけど、ここの社員の。なんか行方がわからねえって言われて、それで」

 佐島さんは一瞬だけ驚いた顔をしたが、なんだかもう、それがわざとらしい演技にしか見えねえ。

「ああ、それでわざわざ来てくださったんですか。確かに彼はここ数日来てなくてねえ、私らも心配しとるんですよ」

 本当かよ、怪しいもんだ。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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