おやじパンクス、恋をする。#229
タカと同格、いやそれ以上の巨体にぶつかって、どこっつうわけじゃねえ、全身に痛みが走った。
芯を捉えられずに斜めに当たったせいで、俺の身体は氷の上を滑るみたいにぐるんとなって、勢い余って雄大の足元にごろごろと転がる形になった。
ボディーガードは予期せぬ背後からの攻撃によろめいて、だけど俺の頭上で雄大はまだナイフを振り回していて、危ねえったらねえ。俺の顔の傍には、さっきボディガードが投げつけた物体――それは丸まったハンカチだった――が落ちていた。
「雄大、おい! 俺だ! 落ち着け!!」
必死で叫んだが、雄大はぎゃあぎゃあ喚くだけで俺には気づかない様子だ。すぐに体勢を立て直したボディーガードが、慣れた感じで左右にステップを踏み、革靴の先端で雄大の左わき腹あたりに突き刺すような蹴りを当てた。
雄大は「むっ」みたいなリアルな呻き声を上げながら壁にたたきつけられ、その拍子にナイフが手からこぼれ、あろうことか床に転がってる俺の顔へと降ってきやがった。
「うおお、危ねえ」
咄嗟に手で払って事なきを得たが、事態は悪くなるばかりだ。たぶん何かしら格闘技をやってんだろう、ボディーガードは続けて重そうなパンチを雄大の背中にボコボコと放ち、その度に「むっ」「むっ」と呻き声が上がる。
「おいコラてめえ!」
俺はパンチの雨が降ってる上空にビビりながらも立ち上がり、結果的には雄大とボディーガードとの間に立つようなカタチになってしまった。ボディーガードは初めて俺に気付いたみたいな顔をして、なんでだろう、急に動きを止めると、目を細めて俺を見つめた。
「あれ? あんたこないだ会ったよな、ほら、会社で」
ボディーガードがやけに親しげに言い、その顔に連れに見せるような無邪気な笑顔さえ浮かびそうで、俺はゾッとした。こいつ、あんだけ雄大をボコボコにしている間、そんな冷静な、そんな普通なテンションでいたのか?
ダメだ、かないっこねえ。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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