おやじパンクス、恋をする。#226
酒が入ってんのか、デブはバーサク状態で話にならねえ。俺はオールバックのノッポの方に「な、ちょっと今、マジで急いでんだよ、五分で戻るから、ちょっと待っててく……」言ってる途中で胸のあたりをぶん殴られた。
鳩尾や顔に比べりゃダメージは少ねえが、それでも痛え。言葉が止まる。
「ゴタゴタ言ってんじゃねえよ、俺ぁあん時からてめえら気に入らねえんだよ」
キリンが地面の草を食うみてえに、ノッポが身体を曲げて俺の顔を覗き込んだ。そのビキビキしたキレ顔に、俺の方もカチンと来ちまった。
「上等だよこの野郎、人が下手に出てりゃ調子乗りゃあがって」
その細長い顎を打ちぬくつもりでアッパーを放った。
だが俺の拳は、ノッポの顎に到達する前に、横から伸びてきた誰かの腕に掴まれた。それと同時に、エントランスの方から悲鳴とも怒号とも取れぬ誰かの声が聞こえ、横から俺のアッパーカットを邪魔したのが誰なのか、あのニットキャップの男がエントランスで何かしでかしたんじゃねえか、そのどちらを先に確認すべきか判断がつかなくて、ああクソが、何だよクソがとテンパってると、「マサ、大丈夫だ、マサ」腕だけじゃなく肩も掴んできた誰かの声、ああ、顔を確認するまでもなくそれはタカの声だった。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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