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おやじパンクス、恋をする。#227

 「タカ、ここ頼むわ」俺は答えを聞くこともせずエントランスの方に向かって走りだした。

 ボールを持ったラガーマンのごとく、人の壁にタックルしながら進む。

 後ろで何か狂ったような叫び声が聞こえる。

 俺の反撃に激昂したノッポかデブか――あるいは暴れるキッカケを得て歓喜する涼介の声かもしれねえ――とにかく俺はフロアを抜けて、「非常口」って書かれたグリーンの看板の下、ブラックライトだけが灯るエントランスへと突っ込んだ。

 正面が出口、右に伸びる細い通路の先にトイレがあるんだが、細い通路は置かれたコインロッカーのせいでさらに狭くなっていて、見通しが悪い。

 最初俺の目に入ったのはトイレの方を向いて、つまり俺に背を向ける形で立っている二三人の客(どうでもいいがそのうち一人はなぜか短パンだった)、その向こう側に、コインロッカーにもたれて立っている佐島さんらしきおっさんと、それを守る壁みたいに両手を広げてるボディガードの背中が見え、そして最後にそのさらに向こう、濃い色のニットキャップを被った男の顔がボディガードの肩越しに見えて、無意識の内に俺はその短パン野郎の背中にタックルすると前に進み出た。

「うわああああああああああ」

 俺の行動が契機になったみてえに誰かが叫んで、俺は目を丸くして呆然としている佐島さんの脇を抜けながら言った。

「雄大ぃぃぃぃ」

 ボディガードがハッとして振り返り、瞬間、ニットキャップにポロシャツという格好の雄大の全身が見え――

 おい、嘘だろ。

 おいおいおいおい、あのバカ。

 ……雄大はナイフを持っていた。

 下腹のあたりで、両手で、ナイフを持ってたんだ。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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