おやじパンクス、恋をする。#166
彼女との初デートから十日近く経った頃、午後三時過ぎのいつもの時間にiPhoneが鳴った。画面には「りんこ」の文字。
俺の女。
俺の恋人。
三十年越しに実を結んだ、俺の初恋。
毎日毎日電話をくれて、俺の身体を気遣ってくれ、時間が取れないことを毎日のように詫びる、りんこ。
育ての親、いや、それ以上の存在を看病しながら、それでもその心労を俺に見せないように歯を食いしばる。そんな健気な、愛しい、彼女。
だけど。
……
自分でも信じられなかったが、俺はその着信を無視した。
何が起こったのかよく分からなかった。
俺は自宅のベッドでゴロゴロしているところで、忙しくもなければ、急いでいるわけでもなかった。
だけど俺はiPhoneを裏返しにして置き、それから丸めたタオルケットを上に置いた。
それでもバイブ音が聞こえてきたので、テレビのボリュームを上げた。
それから、アリバイを後から作るみたいに、シャワーを浴びた。シャワー浴びててよ、出れなかったんだよ、彼女にそう言い訳する自分を想像しながら。
タオルで乱暴に頭を拭いた。
ガシガシ、ガシガシ、痛みを感じるくらいに。それで自分を罰したような、さっきの罪が償われたような気に一瞬なりかけて、んなわけあるかバカと自分で突っ込む。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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