おやじパンクス、恋をする。#085
何だろう、相手が誰だか知らねえが、涼介をこんなにした野郎がムカついて仕方なかった。
この歳にもなって気持ち悪いかもしれねえが、男っつうのは、心を許したダチが何より大切なんだ。普段さんざ振り回されてるこのキチガイ野郎でも、ダチはダチ。
俺のダチをこんなボコボコにしやがって。覚悟できてんだろうな。
だが涼介は、また、とんでもないこと言いやがった。
「梶商事」
「はあ?」
「の、嵯峨野」
「はあああ!?」
「の、雇ったゲートキーパー」
「お前、何言ってんだよ」
「の」
「の?」
「黒人」
「黒人!」
「の」
「まだあんのかよ!」
「いやもうねえけど」
そう言って涼介はヘラヘラと笑った。
俺の頭はもうハテナだらけだ。なんでこいつから、梶商事や嵯峨野の名前が出てくんだ? それに、なんだって? ゲートキーパー?
「ゲートキーパーって、ライブでも行ったのか?」
「ああ、まあな」
ゲートキーパーってのは、ライブとかパーティとか、とにかく人の集まる催し物の入口に立ってる奴のことだ。チケットのチェック、いわゆるモギリを兼ねてる場合も多いが、実のところ、本当の仕事は別にある。
おかしな輩が入り込まねえように睨みをきかせること。要するに「用心棒」としての役割の方がメインなんだ。そしてだからこそ、ゲートキーパーはムキムキの筋肉をまとった黒人のタフガイってのが相場だった。
確かに黒人のタフガイが相手じゃ、タカならまだしも、涼介じゃ適うはずもねえ。そういう意味じゃ、その説明は納得のいくもんだった。
「誰にやられたのか」においては、だけどな。
なんでこいつから梶商事や嵯峨野の名が出てくるのか、そこについてはさっぱり分からねえ。
「涼介、ちゃんと説明しろよ」
俺はマジメな口調で言った。先日俺の店で雄大から聞いた「会社乗っ取り」の話もある。どう考えても、嫌な予感しかしない。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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