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おやじパンクス、恋をする。#086

「よお、聞いてんのかよ」

 涼介がのんきにタバコをぷかぷかやって答えねえので、俺はカチンと来ちまった。

 近づいていって、襟首を掴んで引き寄せた。

「おいコラ、いい加減にしねえとぶん殴るぞ」

「おいおい。何いきなり切れてんだバカ」

 涼介は苦笑いと驚きの中間みたいな顔をして、それからガキが不貞腐れるみてえに、プイッと顔を背けた。そして俺の手を跳ね除けると、暢気にMacの前に座って、電源を入れた。

 なんだこいつ、マジで腹立つ。

 そう思いつつ、俺は俺で、何をそんなにイライラしてるんだ、とも感じていた。確かに涼介の人の舐めた態度は許せねえ。許せねえけど、そんなの今始まったことじゃねえし、なんで俺はそんなにムカついてるんだろう。

 何かが頭に浮かびかけたとき、涼介が「よお」と声を掛けてくる。

「なんだよ」

「これ見てみろよ」

 含み笑いを浮かべながら、涼介がMacの画面を指さしている。そこに映ってるのがもしエロ動画とかだったら、俺は迷わずその後頭部をぶん殴ってやろうと思ってた。

 いや、実際そこに現れたのはエロ動画と対して変わらねえ、キャバクラとかヘルスとかそういう感じの水商売風のサイトで、俺は腕を振り上げかけたんだ。

 だけど、「俺ぁ昨日、これに行ってきたの」涼介がそんなことを言うもんだから、とりあえずぶん殴るのは我慢して、涼介の指差す画面をもう一度見た。

 黒い背景に金ピカの横文字でなんちゃらパーティーと書かれてあって、日付と場所、出演するDJとかの名前がずらずらと並んでいる。

 まあ、デザイン自体はクソ下品だが、服屋とかレコ屋とか、あるいはウチの店なんかに山と積んであるイベントやパーティーのフライヤーみたいな感じではある。

「これ、ここ見てみろよ」

 涼介がタイトルの上あたりでマウスのカーソルをくるくる回した。

「何だよ、パワードバイ……カジ……コーポレーション?」

 俺が言うと、奴は頷いた。

「梶商事だ」

「は?」

「これ、梶商事が主催のパーティーなんだよ」

「おいおい、ちょっと待てよ」

「ここ見てみろ」と、俺の言葉は無視して画面をスクロールする涼介。

 やがて画面上に、スーツを着た男の写真が現れた。

 なんか気持ち悪ぃ野郎だ。ヒョロヒョロして、出目金みたいに目がでけえ。なんか顔全体がヌメッとしてそうというか、性格のしつこさが見た目にも現れてるみたいな嫌な感じの野郎だった。

 会ったこともねえ奴だが、俺はそいつが一瞬で嫌いになった。そして次の瞬間、涼介がとんでもないことを言いやがった。

「そいつが、嵯峨野」

「はあああああ?」

 俺は自分でも驚くくらいでけえ声で言った。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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