おやじパンクス、恋をする。#087
梶商事の自社ビルは、問屋町の中心にあるでけえホテルに隠れるように、ひっそりと建っていた。交通の便は悪いが、建物の数は多い。
かなり前に建てられたんだろう、柄の悪い茶色いタイル張りのヤクザな雰囲気で、入口に掛けられた看板には、筆で書いたみてえな仰々しい字体で、「梶商事」とある。
扉にはこれまた時代遅れな磨りガラスがはまっていて、中の様子は見えない。
俺は涼介に借りてきたSRにまたがったまま、ビルを見上げた。隣にあるホテルよりもずいぶん小せえが、それでも六階建てくらいはある。
けど、なんとなくひっそりしてるって言うか、人の気配は感じられない。涼介が言っていた通り、派手にパーティーをやった次の日である今日は、振替休日ってことで、会社自体が休んでいるようだ。
バイクから降り、正面の扉を押したり引いたりしてみたが、施錠されていて開かなかった。中を覗き込むが、緊急出口の緑ランプ以外、照明もついていない。
俺はホッとしたような、残念なような、変な気分だった。
俺はポケットからiPhoneを取り出して、こないだカズが置いていった雄大の番号にかけた。
呼び出し音を聞きながら時計を見る。十一時過ぎ。さすがにもう起きてんだろ。
やがて、機嫌の悪そうな、掠れた、雄大の声が聞こえた。
「………誰だよ」
何だとコラ。俺は心の種火が、ボッと大きくなったのを感じた。
「誰だよ、じゃあねえんだよタコ。69のマサだよ」
雄大に負けえねえくらい機嫌の悪さをアピールした口調で言うと、数秒間の沈黙があって、「どうも」と返ってきた。
「昨日、うちのバカが世話になったんだって?」
「…………」
タバコに火をつけながら俺が言うと、雄大は意味深な無言を返してきた。
コイツやっぱり、知ってやがる。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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