おやじパンクス、恋をする。#088
「おい、黙ってちゃわかんねえよ」
意地悪く急かしてやると、電話の向こうで雄大が小さくため息をついたのがわかった。
「あのバカって、前に会ったあの人のことですか。あの、髪の長い」
「そうそう。ヤク中のキリストみたいな奴だよ。似合わねえスーツ着て、一人でぶっこんだんだろ?」
俺はそう言って笑った。もちろん、楽しくて笑ったわけじゃねえ。
まあ、さすがにそれくらいは分かるんだろう。雄大は笑わずに、また黙った。
「おい、聞いてんのかよ。おたくの会社のパーティーによ、うちのバカがよ」
だんだんイラついてきて、口調が荒くなる。雄大の困った顔が浮かぶが、そんなこと知ったこっちゃねえ。
「マサさん、マジでやばいですよ」
質問には答えず、雄大は言った。
「はあ? 何がやばいんだよ」
「何がって、マサさん……笑い事じゃないですよ。俺だって、あんたらと繋がってることバレたら何されるか……」
「何ビビってんだよお前」俺は笑った。「会社を取り戻すんじゃねえのかよ、跡取り息子さん」
沈黙。電話越しにも感じる重苦しい雰囲気。
何秒待っても雄大が話さねえので、俺はトドメを刺しにいった。
「彼女も居たんだってな」
「……」
「嵯峨野はもう、彼女のオトコ気取りらしいじゃねえか」
「……」
「お前よ、それを黙って見てたわけ?」
「……」
「彼女があのチビに肩抱かれて、悲しそうにしてんのを、黙って見てたわけ?」
「……」
「それを咎めた涼介が、ゲートキーパーにボコスコにされんのをよ、他人事に眺めてたわけ?」
するとさすがに我慢ならなくなったのか、雄大が叫ぶように言った。
「だって、仕方ないじゃないですか! 俺はあの人を知らないことになってるんですから、止めるのも変でしょ!」
ガキの言い訳。仕方がなかったことくらい承知だよ、バカ。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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