おやじパンクス、恋をする。#089
「まあいいや、もうお前には期待しねえよ、つうか、最初っから期待してなかったけど」
「そんなこと言われても……」ブツブツ言う雄大。
「それより、状況はどうなってんだ? さすがにざわついてんだろ」
「状況って……別に変わってないですよ」
「ああ?」
「あの程度の揉め事、別に珍しくないですから」
まるでバカにするように言う雄大に、怒りがふくらむ。
涼介が俺のために、わざわざ敵地に乗り込んでってよ、勝てっこねえゲートキーパーにあんなになるまでブチのめされてよ、そんで状況は別に変わってないときた。
ちなみになぜ涼介がそのパーティを知ったかって、なんてことはねえ、カズから諸々の事情を聞いて(つうかホントあいつお喋りだな)、得意のパソコンを使って梶商事のことを調べたわけだ。で、昨晩のパーティー告知を見つけた。
「男性はスーツ着用」というドレスコードのために、スーツなど一着持ってないあいつは「くそ忙しいのにわざわざイオンの紳士服売場まで行って一着九千八百円もするダセえスーツを自腹で購入」し、「おっさんパンクスの気持ち悪ぃ初恋のために、この大切な身を挺して」まで「潜入捜査」を行ったというわけだ。
(言うまでもねえことだが、「」内は本人談だ)
後先考えねえでパーティにぶっこみ、挙げ句ガチムチ黒人に喧嘩売るってのは、いかにもイカれた涼介らしい行動だ。だけどな、たぶん、「俺の初恋のために」ってのは嘘じゃねえ。
あのキチガイ、トラブルメーカーなのは間違いねえし、どう考えても頭はおかしいんだが、仲間を想う気持ちも人一倍強え。俺たちはそういう涼介を知っているからこそ、20年も友達やってるわけだ。
それなのに雄大は、まるで涼介の存在を否定するみてえなこと言いやがる。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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