おやじパンクス、恋をする。#236
さっきまでの怯えた表情はどこかへ消え、例のあの顔、あの殺し屋みてえな無表情で、テーブルの上に視線を落としている。そのテーブルにははたくさんのグラスと、そしてケーキとかパスタとかの食べかけが乗っている。
「雄大……おい……」
思わず呟いた時、一瞬の隙をついて雄大はボディガードの拘束から抜け出すと、ケーキを取り分けるためのでけえフォークみてえなものを引っ掴むと、テーブルの上に足をかけ、反対側にいる佐島さんのもとに飛びかかろうとした。
自然と身体が動いた。
油断してたんだろう俺の拘束も一瞬で外れ、俺は水泳選手の飛び込みみてえにぐっと膝を折り曲げると、溜まった力を前方に向けて開放した、「マサ!」タカの声を後ろに聞きながらタンタンタンっと走り寄り、雄大に一歩遅れてテーブルの上に飛び乗った。
一メートル向こうに雄大の背中、俺と雄大が飛び乗ったせいで皿やらグラスやらがガチャガチャいいながら散乱する、雄大はでけえフォークを振りかぶってソファの上の佐島さんに向かって降下を始める、使い道は違っても、武器としても充分に役割を果たすだろう。
「雄大ぃぃぃ!」
またさっきと同じ目をまん丸にした佐島さんの顔の上空で、俺は叫びながら雄大の背中に飛び蹴りを放った。
……
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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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