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おやじパンクス、恋をする。#192

 そういえば、彼女は喪主ってやつなのかもしれない。最近は葬式自体に縁がねえから(幸せなことだ)忘れちまったが、喪主ってのはいそいろ忙しいんだろうな。

 彼女はどこか嬉しそうにも見える顔をして、俺と雄大をその場に残し、カツカツカツと気持ちのよい足音を立てて戻っていった。

 俺はそれを見送りながら助手席側に移動し、特に何も考えずにドアを開け、乗り込んだ。さっきも嗅いだ年寄りの臭いが、それこそ葬式の線香みたいにツンと香った。

「タバコ、吸っていい?」

「ダメです。禁煙なんで」

「あ、そう」

 俺は既に口にくわえていた一本を、しぶしぶ箱に戻そうとする。

「まあ、でも、いっすよ」雄大が言って、ダッシュボードの灰皿を引き出す。中に入っていた飲食店の割引券とか、ガソリンスタンドの現金カードなんかを取り出して、「どうぞ」と言う。

「いいのかよ」

「いいっすよ」

 じゃあ失礼して、と再び咥えて火をつける。せめてってことで窓を開けようとパワーウインドウのスイッチを探したが、さすがの旧車、それは懐かしい手動式だった。俺は何か嬉しくなりながらそれを二三度回転させ、頭十センチくらい開けてやった。

「すげえな、久々に見たぜこんなの」

「この車、親父からもらったんすよ」

「え、そうなの?」

「だいぶ前ですけどね、買い換えるって言うんで、くれってねだったら、くれたんです」

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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