おやじパンクス、恋をする。#193
「へえ。どうせならもう少し新しいやつもらえよ」俺は開いてる十センチを目指して煙を吐く。
「俺が養子だって、知ってましたっけ」雄大は特に口調を変えずに言う。
「ああ。知ってるよ」
「親父、結構厳しかったから。何か買ってもらったとか、譲ってもらったとか、あんまり記憶にないな。特別扱いっていうか、そういうのを避けてるような感じでした。会社入る時だって、普通に面接とかあったし」
「へえ、そりゃすげえな。徹底してるな」
「ひどい話っすよ。息子なんだから少しくらいひいきしてくれよって思いましたよ」
「そりゃ逆にあれなんじゃねえの、周りに示しがつかねえっていうかさ」
「ちょっとくらいいいじゃないですか、周りの社員にわからないようにやるとか」
「お前、それを期待して梶商事に入ったのかよ」
「そうですよ」
雄大があっさりと認めたので、俺はちょっと驚いてその顔色をうかがった。迷いのない物言いに、なんでかちょっとゾッとしたんだ。
けど、雄大の顔はあくまで穏やかで、ゆったりとシートに背を預けて露天風呂にでも入ってるみてえな感じだった。
「原始時代とか、大変だったと思いませんか?」
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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