おやじパンクス、恋をする。#146
「そもそも梶さんとはどうやって会ったんだ?」
「お金借りにきたのよ、あの子」
「はあ?」
「中学生の頃に、一人で、梶商事に」
「はあああ?」
思わず言う俺に、彼女は苦笑いで応える。
「どういうことだよ」
彼女はコロナを傾け、そして、懐かしげに空を見上げる。
「もう十五年も経つんだね」
それは今から十五年前、つまり俺らが三十代前半、そして雄大が中学一年生の頃に起こったらしい。
当時まだ金貸しをやっていた梶商事に、突然中学生が現れ、金を貸してほしいと言う。最初はふざけて言ってるのだと思い、現場の人間も相手にしなかったが、何度追い払っても帰ろうとしねえ。
困った社員の一人が社長の梶さんに報告すると、じゃあ俺が直接相手してやる、ということになった。
そうして現場に現れた梶さんだったが、その中学生、つまり雄大の顔を見た瞬間、こいつに金を貸すなんてとんでもねえと思った。
「まあ、ガキに金貸すほど暇じゃねえだろうしな」
「ううん、そうじゃないのよ」
「どういうことだよ」
「その時の雄大、殺し屋みたいな顔してたんだって」
「はあ?」
俺は言ったが、だが、どこかで、心当たりがあるような気がした。昨日病院のエレベーター前で見たあの変な無表情。確かに人を殺しそうな顔つきだった。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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