見出し画像

若手俳優が勝つために絶対に経験しておくべき○○(詐欺っぽいけど詐欺じゃないよ)

もう六四つ寝るとお正月。今年も残り少なくなってきました。朗読パンダ座付き作者の大塩です。
本日は、もうすぐ私が毎年楽しみにしている新春浅草歌舞伎のチケット発売が始まるなぁと思っていたときに、「これは歌舞伎に限らず、あらゆる藝事に通じる話なんじゃないか」と気付かされた、若手の育成に絶対必要なこと、というテーマのお話です。

新春の浅草はとても風情があります。仲見世を中心とした浮かれ方に、私は高揚感とともにある種の健全さを覚えます。それは、奇を衒った悪目立ちをしようとせず、真っ正直な正月飾りで街を彩り、一陽来復新玉の春を言祝ぐ音で溢れた様子には、はっきりと前を見る意志が表れているからです。
そんな街に後押しされて若手俳優たちが、普段の大歌舞伎(簡単に説明すると人間国宝も出演する松竹主催による歌舞伎の本公演)や花形歌舞伎(中堅どころを中心とした座組による公演)では演らせてもらえない大役に挑むのが新春浅草歌舞伎であり、若手の登竜門といった位置づけになります。
伝統と格式に則って興行される歌舞伎では、演れる役に様々な決まりごと(慣例)があり、年齢やキャリア、名前の大きさによって、大きな役は若手には回ってきません。
それが、力を貸すために特別出演のような枠で登場するベテランを除き、若手で構成された座組による浅草歌舞伎では、若手しかいない訳ですから、大役から脇役まで、みな若手が勤めます(役を担当する場合はこの勤めるです)。
この大役を経験することの意義に、私は最近ようやく気付き始めました。
使い古された表現ですが、役が役者を育て、役者が役を育てるというのは、真理だなと今更ながらに思うのです。
ただし、大役を担うというのは、それだけ責任を伴うことであり、だからこそ若手には任せられないと興行主が考えてしまうのも真理です。そこで、浅草歌舞伎は、大歌舞伎に比べるとチケット価格が随分安く設定されています(あくまで比較上のことですから、それなりに高額ではあります)。観る側にも、これは将来の大看板を育成するための場でもあるから、国宝芝居に比べたらまだまだのところがあるだろうけど、そういうつもりで観てくれ、という分かりやすいメッセージです。そして、そのコンセプトを後押しするのが冒頭で述べた浅草という街です。浅草は古くから、多くの藝人が修行時代を過ごした街であり、そこから全国区の大スターになっていった人たちを多数輩出しています。そんな浅草という場が、時代は変わっても、興行形式が変わっても、同じように根付いていて、若手の修行を見守る空気を保ち続けています。

朗読パンダ版・新春浅草歌舞伎(的な)

そんな、街とシステムにインスパイアされ、朗読パンダも新春浅草歌舞伎のような興行を打とうと思い至りました。
2024年は怒涛の興行ラッシュになります。8月には2度目のあうるすぽっと本公演が控えるだけでなく、年末には待望の「〈情報解禁前〉」も動き始めています。そんな中、2月12日に初のワークショップ(WS)修了公演を行うことにしました。
本公演ではまだ経験が少ないため演じられない大役に、将来の演劇界を担うかも知れない若手が挑みます。もちろん、公演は主催者や俳優だけのものではありません。本公演より格段に安いチケット代金とはいえ、ご覧くださる方にお楽しみいただくために努力することを怠らず、充実した興行となるよう演目にも工夫をして参ります。
落語作者・小佐田定雄先生のお許しを得て、「幽霊の辻」を上演するのもそのひとつです。これは、弊団常連出演者の〈つわものども〉に演って欲しい、滑稽噺の大傑作ですが、それをあえて若手公演で上演します。
かつて、年少者でもプロ資格を有した者はすぐにプロのツアーに参戦すべきか? という質問に対し、ゴルフ史上最強の王者=タイガー・ウッズは「ノー」と答えました。タイガーは、中学・高校・大学と、アマチュアの各ステージで勝ち方を覚えてから次のステージに進むべきだ、と主張しています。私はこの言葉が今回の修了公演にちょうど適合すると考えています。
WSの修了公演ですから、座組の中にそう大きな実力差はないはずです。その横並びの中で、一歩抜きんでる者は誰か。勝ち方を覚えるのは誰か。若手公演にはそんな楽しみ方もあると思うのです。
また、受講者のみなさんには、本公演では演れない大役を楽しみ、大役だからこそ試せる「遊び」」に挑み、劇場を自分たちの力でいっぱいにする勝ち方を覚えて欲しいのです。
当然ながら、超新星が現れていきなり本公演で主役を勤めることがあっていいと思いますし、藝の世界には努力では凌駕できない才能があることも事実です。ではありますが、いきなり途中をすっ飛ばして本公演を目指すのは、多くの人にとって無理があります。ロールプレイングゲームおいて、他のパーティメンバーが高レベルになった段階でレベル1の仲間を加え、強敵との一回の戦闘で一気にレベルアップを図るというのは常道ですが、藝事の世界でそれをやってしまうと、後々本人がついて来られないという事態に陥ります。私たちも最初から東京芸術劇場やあうるすぽっとで公演している訳ではありません。

そんな訳で、全8回のレッスンを経て、大役に挑む修了公演。
勝ち方を学びたい方。道は険しいですが、門は大きく開かれています。
ご覧頂く方。若手の挑戦を、おだてず・否定せず、厳しく温かく御批正ください。

新春浅草歌舞伎の後は、如月若手パンダの奮闘でお楽しみください。

朗読パンダ代表
大塩竜也(浅草歌舞伎では大和屋贔屓)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?