見出し画像

情シスが抱える劣等感と向き合う

この記事は corp-engr 情シス Slack(コーポレートエンジニア x 情シス)  Advent Calendar 2023 18日目の記事です。

過去に寄稿したアドベントカレンダー記事も、よろしければご覧ください。

当初、今年のアドベントカレンダーでは SaaS やセキュリティ製品についての Tips を書こうと思っていましたが、10,000人以上が所属する多様化した情シス Slack コミュニティにおいては、特定の製品や技術についてではなく、コンテキストを落とした内容にしたほうがより多くの方に役に立つアウトプットになるのではないか、と考えこのテーマにしました。

はじめに


隣の芝生は青い

情報システム部門(情シス)に所属するエンジニアは、組織の中での役割、待遇や業務範囲の広さからなる専門性の不足などから劣等感を抱きやすい職種であると考えています。実際に私も情シスに身を置くエンジニアとして、常に劣等感を付き合いながら日々の業務をこなしています。

劣等感を抱く要因はひとつではなく、いくつかのに分類ができると考えています。本エントリでは情シスが抱える劣等感の要因と向き合い方についてを書きます。ここでいう劣等感とはプログラミングスキルなどの技術的な要因に限らず、ビジネススキルやコミュニケーションスキルなどにも当てはまるものだと考えています。

あくまで個人としての推測を含む考察になるため、所属組織やコミュニティを代表するものではありません。予めご了承ください。

なぜ劣等感を抱くのか

同僚に対しての劣等感 

優秀な同僚

ひとり情シスや兼務であることをのぞいて、多くの組織では情報システム部門としてチームで働くことになります。チームの同僚は同じ技術や製品で業務を行う最も近くにいる同職種であり、自分と比較した際に、同僚が優れたスキルや成果を上げている場合、その差が顕著に現れます。とくに JTC などの大手企業からベンチャー企業に転職し中途入社した際は、同僚や新卒社員の優秀さに強く劣等感を感じるかもしれません。

最近はデジタルネイティブ・Z世代と呼ばれる、幼少期からインターネットに触れて育ち、当たり前に IT を使いこなす若手も社会で活躍し始めています。彼らは技術的な面だけではなく、オンライン / オフラインのコミュニケーション能力も持ち合わせていることも多く、そういった若手の後輩に対しても劣等感を感じやすいです。

エンジニアに対しての劣等感

スペシャリストなエンジニア

近年の情シスはIT企業、ベンチャー企業を中心に、SaaS の API 連携や自動化、IaC(Infrastructure as Code)の実装を行うコーポレートエンジニアとして再定義され始めていますが、非IT企業、大手企業の情シスは管理部門に所属する事務職として扱われることが多く、IT を扱う職種にも関わらず、待遇や給与体系もエンジニア職より低く設定されていることがあります。

SIer や自社プロダクトを内製開発する事業会社におけるエンジニアは、ビジネスの売上に直接貢献するプロフィットセンターです。いっぽうで、情シスは総務や経理などと同様に間接部門であり、コストセンターと呼ばれます。社内での役割、待遇や年収の差に劣等感を抱きます。

また、情シスは職種の特性上業務の幅がとても広く、システムの開発・運用からネットワーク、サーバーインフラ、ヘルプデスクから、オフィスにある電源が挿さるもの全てに至るまでを管轄します。大手企業の場合はチームごとに細分化されていることもありますが、中小企業やひとり情シスの場合はこれらを全て担当します。

これらの特性上ジェネラリスト型、つまり IT 何でも屋さんになりがちです。市場価値を高める専門性を身に付けにくいため、専門性の高いスペシャリスト型のエンジニアに対して技術的な劣等感を抱きがちです。

他社の情シスに対しての劣等感

イケイケでキラキラな情シスたち

近年はこれが最も多いと個人的に感じています。情シスは従前、ソフトウェアエンジニアのような勉強会やコミュニティの文化が薄く、比較的閉鎖的な職種でした。ここ数年、情シス Slack を筆頭に SaaS やセキュリティ製品のユーザーグループの登場、アドベントカレンダーを含むブログや note でのアウトプットの文化が醸成され、他社の事例を知る機会が多くなりました

SNS やブログ、勉強会で積極的にアウトプットを継続している情シスはエンジニアとしてもビジネスパーソンとしても優れている人が多く、キラキラして見えます。最先端な環境で活躍している他社の情シスの取り組みを見ていると羨望するとともに、自社がレガシーなシステム保守運用や「IT介護」とも揶揄されるサポート業務に日々追われてしまっている場合など、自社の環境や自分の取り組みとギャップが大きいことに劣等感を抱きます。

また、SNS や情シス Slack などを見ていると、業務時間後に勉強会に参加したり、休日もアウトプットや副業、コミュニティ活動に取り組んでいる情シスの投稿を見かけることも多いと思います。自身がそういった取り組みをできていないと劣等感、焦燥感に苛まれます。

どう向き合うか

生存者バイアスに惑わされない

キラキラに見えるのは、泥臭い作業の結果のごく一部

生存者バイアスという言葉を聞いたことがある人は多いと思います。成功者の意見や価値観のみを参考にして誤った判断をしてしまうことです。

SNS を含むインターネットでは特に生存者バイアスが顕著に現れます。インターネット上に溢れるアウトプットは失敗した経緯は含まれつつも、基本的には成功した話になります。SaaS の導入事例に掲載されるのはその SaaS を入れた結果成功した企業であるからであって、SaaS を導入して大失敗した企業の話が掲載されることはありません。失敗事例はなかなか発信されないものです。

情シスの発信においてもこれは同様で、アウトプットがキラキラして見えるのは、その裏にある泥臭い作業やいくつもの失敗の結果の一部だからです。

中には本当に成功し続けているスーパーマンもいるとは思うのですが、えてして勉強会で流暢に事例を発表しているキラキラ(に見える)情シスも、発表に至るまでに泥臭く検証と失敗を繰り返し、直前まで資料を作り直し、苦労しながらアウトプットしているものです。

会社のお金と自分の能力を切り離す

システムを導入できないのはあなたの能力不足ではない

世の中ではデファクト・スタンダードと呼ばれる製品や、ベスト・オブ・ブリードと呼ばれる構成に含まれる高価な SaaS、セキュリティ製品を導入できてないことで、それらを導入済みの他社に対して劣等感を抱くことがあります。経営に対して稟議を通すことができず、導入できなかった自分の能力不足を感じるかもしれません。

まず、予算都合でシステムを導入できなかったのは、情シスの能力不足ではありません。現時点ではその製品の導入が不要と経営が判断したからです。

スタートアップ / ベンチャー企業では社内システム・セキュリティの整備より、まずは事業を伸ばして利益を出す方にコストをかける必要があります。事業によっては初期からセキュリティに投資していることがビジネス上の優位になることもありますが、そうでない企業のほうが多いかと思います。また、当然ですが事業が赤字の状態で、現時点では IT投資に多くの予算が割けないこともあります。経営が導入を見送ったからと言って、情シスの能力や人格を否定している訳ではないです。

もちろん、稟議や経営会議で導入のメリットをうまく訴求できなかったり、そこに至るまでの経営の理解・信頼を得られていなかったり、という場合は情シスのプレゼンテーション能力、経営との関係性構築で改善ができる部分です。そこは我々の力の見せ所なのでがんばりましょう。

また、年収に関しても同様だと考えています。年収は能力に比例しません。もちろん評価の高い人、低い人で昇給額や賞与額は変わるのでその差はありますが、平均年収の低い企業で評価の高い人より、高利益で平均年収の高い会社で評価の低い人のほうが年収が高い、というケースもあります。

成果を上げてもなかなか給与が上がらずに劣等感を抱いている人は、高利益な会社へ転職を検討してみるのも手段のひとつです。

オンリーワン人材を目指す

自分と同じ情シスは1人もいない

まず、世の中にあなたと同じ情シスは1人もいません。いきなり自己啓発的なことを言ってしまいましたが、業界、組織規模、文化、システム・製品、スキルセットが全く同じ組織は存在せず、情シスが行っている業務は組織ごとに異なります。千差万別です。同じ組織にいる同僚もあなたとは違うスキルセットで役割があります。そのためにあなたが雇用されています。

情シスは事業側のエンジニアと比べてスペシャリスト型になりづらい、と先述しましたが、管理部門と近い距離で全社を関わることができる情シスはジェネラリストでありつつも「マルチスペシャリスト」になりやすい職種であると考えています。

吉田さんの名 LT「情シスのキャリアを考える」を引用します。

ふたつの道を極めれば、1/100 × 1/100 = 1/10,000 の存在に

情シスのキャリアを考える by Wataru Yoshida

情シス × 総務
情シス × 経理
情シス × 人事
情シス × 法務
情シス × 広報
情シス × セキュリティ

情シスに軸足を置きつつも、親和性の高い別職種を兼務し、2つの道を極めることで希少性の高いオンリーワン人材になることができます。情シスとして働いている人は数多くいますが「給与計算もできる情シス」「労務管理もできる情シス」「法律もわかる情シス」となった途端に希少価値の高い人材となります。

2つの道を同時に進むことは決して容易なことではありませんが、それを達成したとき、市場価値は事業側のエンジニアを超える可能性を大いに秘めており、引き出しを複数持つことは情シスとして大きな武器になり、そして自信になると思います。

インターネットから距離を置いてみる

少しインターネットを休みませんか

我々の仕事の特性上、気付けば業務の境目がなく最新の技術、製品についてキャッチアップし、それをアウトプットすることが多いです。業務後に勉強会にも参加することもあれば、休日に技術書や技術ブログを読むこともあります。趣味で好んでやっている分には良いのですが、劣等感、焦燥感から行っていると必ず心が疲弊します。

旅行やアウトドア、ドライブなど気分をリフレッシュできる休日を過ごしたり、温泉やサウナで過ごすことで、強制的なデジタル・デトックスを試みることも良いと思います。

ときには一度インターネットから離れて、家族や友人と過ごす時間、またはひとりで趣味に費やす時間などを大事にしてください

終わりに

私の考える情シスが抱える劣等感の要因と向き合い方を書きました。あくまで個人的に考え、向き合っていることなので、これが正解ではないと思います。日々悩みながら過ごしています。

同じように悩み向き合っている方はぜひ X情シス Slack などでお話いただけると嬉しいです。コメントやいいねもアウトプットの励みになります。

情シス Slack については運営 yokoyama さんの記事をご覧ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?