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なぜコーポレートエンジニア(情シス)の採用は難しいのか

この記事は corp-engr 情シス Slack(コーポレートエンジニア x 情シス)  #1 Advent Calendar 2021 12日目の記事です。

情シス Slack については運営 yokoyama さんの記事をご覧ください。

はじめに

 コーポレートエンジニア(情シス)は、昨今の SaaS ・パブリッククラウドの普及にともなうコーポレートITの最適化や、コロナ渦におけるリモートワークを含む多様な働き方に対応した情報セキュリティ・ネットワーク構築などに対応するため、非常にニーズの強い職種となっています。

スタートアップ企業・ベンチャー企業から、エンタープライズ企業に至るまで、業界を問わず多くの企業が情シス人材を募集しています。求人が増えれば競争は激しくなり、年収を含めた待遇面も上昇傾向にあり、いわゆる「売り手市場」となっています。

いっぽうで「コーポレートエンジニア(情シス)が採用できない」という言葉を様々な場所で耳にします。では、なぜコーポレートエンジニアを採用することが難しいのか、私自身も1年間採用活動をしていて感じている点をまとめていきたいと思います。

 あくまで個人としての推測を含む考察になるため、所属組織やコミュニティを代表するものではありません。予めご了承ください。

求人と応募のアンマッチ

 近年では Wantedly や YOUTRUST、Meety など、直接求職者と企業がマッチングする Web サービスも登場しています。いっぽうで、これらの Web サービスに経歴をオープンにして活動しているのはごく一部の層で、大手転職サイトに登録し、転職エージェント経由で求人を出している企業へ応募する手法が今でも主流かと思われます。

「情シス」はソフトウェアエンジニアなどと比べても仕事内容の幅が広く、部署の定義、担当する業務も各社それぞれです。1人情シスとしてあらゆる分野を担当している人もいますが、複数人の情シスメンバーがいる一定の規模の組織では、担当が分かれていることが多いです。

 「コーポレートエンジニア」という職種で求人を出している企業は、SaaS の運用構築のほか、それらを API 連携したり、IDaaS / IdP との SAML 連携を行ったり、と一定の開発経験を含むテクニカルスキルが求められることが多く、SaaS・パブリッククラウドの経験については必須、と言っても過言では無いかと思います。このうち開発経験を問わない「コーポレートIT」という求人も登場しています。

 この求人に対して、オンプレミスサーバーやネットワーク機器の保守運用や、社内基幹システムの内製開発を行っている「社内SE」や、デバイスのキッティングや従業員からの問い合わせ対応を行う「ヘルプデスク」「ITサポート」と呼ばれる職種の人が応募にきても、書類選考の時点でアンマッチとなってしまうことが多いです。

 また、同じ「情シス」という職種においても、数千 〜 数万人の従業員を抱えるレガシー企業(JTC)における組織化された「情シス」と、数十人の従業員で構成されるテック企業における1人目の「情シス」とでは、担当業務も求められるスキルセットも異なる、ほぼ別の職種となっています。

 情シスとして働いている人はこれらの担当業務の違いを理解できても、転職エージェントがこの違いを理解することは難しく、「情シス」というキーワードマッチで候補者を紹介するため、アンマッチが生じてしまいます。

未経験者のハードルが高い

 基本的に情シスの求人は中途採用であり、必須条件に「情報システム部門における業務経験」が入ってきます。ソフトウェアエンジニアなどの開発経験がある場合や、コーポレートIT / ヘルプデスク / ITサポートの求人では、総務などのバックオフィス部門での業務経験がある場合は、情シス経験を問わないこともありますが、即戦力となる経験者が求められています。

 ソフトウェアエンジニアの場合は、学生時代に開発のインターンシップに参加することや、情報系の学校を卒業して新卒でテック企業に就職する、という流れが一般的になってきています。文系学部を卒業した未経験を採用し、研修を経て PG/SE として現場に出す大手 SIer や SES も珍しくなくなってきました。

 いっぽうで、未経験者が情シス専任者として採用されるケースは稀ではないか、と思います。専任者不在のスタートアップ企業や中小企業では、プロダクト側のインフラエンジニアや総務などのバックオフィス部門、CTO などの経営陣が兼任で情シス業務を担当しているケースもあります。この場合、未経験者を教育するリソースはなく、1人目情シスには経験者を採用しなければなりません。

 また、学生などの未経験者がソフトウェアエンジニアを目指す場合は、書籍や Udemy、Progate などの Web コンテンツを利用したり、プログラミングスクールに通ったりすることで学習することができます。情シスで必要となるスキルもこれらで学習できる部分もありますが、グループウェアやビジネスチャットなどの SaaS や、エンタープライズ向けのネットワーク機器やサーバーについては、個人で契約や購入するハードルが高いため、学習障壁のひとつとなっています。

優秀人材の取り合い

 「情シス」部署名は違えど、あらゆる業界の組織にも存在するため、人材のは専門職と比べても母数の多い職種です。いっぽうで昨今のIT業種のように、数年単位で転職を繰り返す風潮はまだまだ少なく、同じ企業に長く勤めている方が多く、転職市場になかなか出てきません。
 転職活動を行っても、先述の通り情シスの担当業務は組織によって異なるため、数十年担当してきたシステムや技術が他社では通用しない、といった悲しいアンマッチも発生してきます。

 また、テック企業に所属し、SNS やブログ、勉強会などのコミュニティで、積極的なアウトプット活動をしているような、著名な情シスの多くは企業側からのスカウト(ヘッドハンティング)や、友人や知人の勤める企業へのリファラル採用で転職しており、転職サイト、転職エージェントを利用していません。

 SNS で転職活動をオープンにして、多数の企業からリプライが届いている投稿を見たことがある人も多いかと思います。このようにごく一部の優秀な人材の取り合いが各所で発生しており、高待遇を持って迎え入れられています。そのいっぽうで、レガシー企業の情シスは「アンマッチ」により採用が見送らる、という二極分化になりつつあります。

どうすれば採用できるのか

 これを行えば採用できる、という銀の弾丸は無いと思います。これらの話はコーポレートエンジニア(情シス)に限ったことではなく、他職種でも起きていることではないか、と推察します。

 情シス人材側がスキルアップや最新動向のキャッチアップを怠らず、積極的なアウトプットを継続することで市場価値を高めていく… ということは当然必要ですが、採用側がとれるアプローチを考えていきます。

カジュアル面談の実施

 Web サービスを使った転職活動では、まず選考に進む前にカジュアル面談を実施することがスタンダードになってきています。応募をする前に、まずは会社について知ってもらう、相手について知る、スキルやカルチャーが自社とマッチするかを見るために必須だと思っています。

 転職エージェントからの紹介だとまず書類選考から始まります。職務経歴書からは経歴やスキルを知ることができますが、志望理由やマインドを知ることができず、カルチャーがマッチしているかわかりません。一次面接にきてはじめて会話をすることになるので、採用側も候補者側も「思ってたのと違う」といったことになりかねません。選考に入る前に、まずはカジュアル面談を通してお互いの認識をあわせておき、その上で応募してもらうことでアンマッチを防ぐことができます。

 気をつけなければならないことは「カジュアル面談は選考ではない」ということです。あくまで対等な立場でお互いを知る場所なので、志望理由を聞いたり、スキルを見極めるような質問をしたりするのは NG です。当然、合否の連絡も不要です。
 カジュアル面談に特化した Web サービスである Meety がカジュアル面談のガイドラインを公開しています。カジュアル面談をしたことがない方は、一度こちらを読んでおくことを推奨します。

 短期的な採用には結びつかないことも多いですが、多くの人と面談をすることでまずは会社を知っていただき、その人が転職活動を始めた際の候補のひとつになれるよう、継続して行っていきましょう。

体験入社(副業)の実施

 短い面接時間の中で採用を判断することは非常に難しいことです。スキルマッチはもちろん、情シスはバックオフィス部門を含め、社内の多くの人と関わる職種なので、従業員と円滑なコミュニケーションが取れるか、組織に馴染めるか、といったカルチャーマッチも重要となります。

 候補者側と合意がとれれば、まずは業務委託として期間を定めて「体験入社」としてジョインしていただき、実際に一緒に働きながらカルチャーマッチ度合いを見るとよいと思います。候補者が副業可能な会社に在職中の場合は「副業情シス」として、パートタイムでの稼働でも可能です。

副業情シスについては昨年の note もあわせてご覧ください。

アウトプットを継続する

 候補者側だけではなく、採用側にもアウトプットは求められます。求人を開けてただ待っているだけでは優秀人材は応募にきません

 採用側も SNS やブログでのアウトプットを継続的に行い、採用活動を行っていることを積極的に発信していきましょう。勉強会への登壇やスポンサー、テックブログの投稿などは直接的に採用に繋がらないかもしれませんが、カジュアル面談と同様で、まずは会社を知ってもらうことが重要です。

少しだけ宣伝ですが、情シス Slack コミュニティでは「情シス転職ミートアップ」というイベントを定期的に実施しています。スタートアップ企業からエンタープライズ企業まで、業界問わず毎回多くの企業に登壇していただき、100名を超える転職検討者も参加しています。

おわりに

 ここまで色々と書いてきましたが、私自身も採用については日々模索しています。ぜひ同じように採用に悩んでいる方は Twitter などでお話していただけると嬉しいです。

 また、私が所属しているいくつかの企業でも情シスは積極的に採用していますので、ご興味のある方はぜひ「カジュアル面談」させてください!

明日はふみふみさんの記事です。お楽しみに!


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