遺伝性、あるいは突発性の事象
K氏が小さい頃、父親が失踪した。ある朝、父親はいつものように仕事に向かい、そのまま帰らなかった。書斎の机にメモが残されていた。そこには次のように書かれていた。
ちくわ
それから三十余年。K氏は結婚して子供もできた。K氏は失踪当時の父親と同じ年齢になっていた。
ある日、K氏は通勤電車で外を眺めていた。普段は読書をしてあまり外を見ないのだが、その日はなぜか窓の外を眺めたい気分になった。そしてあるものが目に入った。
「そういうことだったのか」
その日は仕事が終わるとまっすぐ家に帰った。翌日K氏は、いつもどおり妻に見送られて玄関を出た。マンションの一階まで下りると、自宅の郵便受けに一枚のメモを残した。
午後に妻が郵便物を取りに下りてきて、「ちくわ」と書かれたメモを見つけた。
K氏はそのまま帰らなかった。
めかぶは飲み物です。