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アリシアの幻覚

私の中の想像でしか無くて、その根源となるものたちは周りから得たものであるけれども


何一つ変わらない朝。
平和な、朝。
アラームを6時30分にかけて35分のスヌーズで起きる。
今日もいい日になる、そう呟きながら身体を起こす。
濡れた顔で鏡の中の目を見る。

信号が鳴いている。
2秒後に変わる信号も待てない人々。
3分後の電車も待てない人々。
ああ、今日はハズレだ、揺れが強い。

この車両にはいったい何人の未来人がいるんだろう。
何人の人が心を読めて、何人の人がスーパーパワーを持ってるんだろう。
全員の心の声が聞こえるなんて不快だろうけど。
あんまり変なことは考えないようにしなくちゃ。
平凡な人間なんて少数なのかもしれない。

「駅でめっちゃイケメン見た。」
かっこいいって言うのも可愛いって言うのもその人の主観にすぎない。
痛みも、感覚も、そのようなものは同様。
美術だって美しいとは一概に言えたもんじゃ無い。
ただの名前。
「美人だからさ、いいよね。」
美しい人は得をすると言うけれど、貧しいという肩書きがあるだけでその可能性は低くなる。
貧しいだけで無く、何か一つ劣るものがあれば同じだ。
比べた時に同条件であれば話は変わるのかもしれないが。

今なんてどんな人であってもフォロワーが多ければ一目置かれる。
もちろんそれは良い意味でも、悪い意味でも。
悪人だって善人だって、その素性はその人にしかわからないというのに。
口コミの数、いいねの数、肩書き、点数、学歴。
資格は必ず役に立つとは限らない。

「サンドイッチ?いいね、美味しそう。どこの?」
普通に会話している彼女は世間一般に言う「普通」ではないかもしれない。
何者かなんてこちらの推測にすぎない。
宇宙人だったら?スパイだったら?
人工知能が埋め込まれた機械と話しているのかもしれない。

私はどれだけの真実を知っているのかな。
友情?恋愛?人?社会?
どこまでが知り得ていることなのだろう。
この世界だって誰かのプレイしているゲームの一部に過ぎないかもしれない。
誰かの、もしくは自分の想像にしかすぎないかもしれない。
記憶を含め、そこにあるものの存在だって、確かではない。

あの窓から見えている世界は本当はもっと色褪せているのかも。
音はもっとたくさんの種類があるのかも。
本当は私も架空の何かなのかも。

近くの席からの独り言。
話の内容に筋が通っていない、テーマも変わりすぎ。
食事しながらそんなに器用に話せるなんて、ましてや、独り言なんて。
ここは変人だらけ。

熱いお湯を張った湯船に沈む。
頭の先まで水に浸かり目を開け、深く息を吸い込む。
ヒリヒリする目をこする。
冷房の効いた部屋で布団に埋もれる。
抱き枕に足を絡め、まぶたの裏を見る。

何一つ、かわらない。
何一つ、わからない。

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