変調_日本の古典_講義

能は「こころ」ではなく「思ひ」を大切にする〜『変調「日本の古典」講義』

◆内田樹、安田登著『変調「日本の古典」講義』
出版社:祥伝社
発売時期:2017年12月

武道家にして思想家の内田樹と下掛宝生流ワキ型能楽師の安田登による対談集。能楽を中心に『論語』や日本文化の特質などが語られていますが、論題はあちらこちらへと飛翔していきます。

内田は例によってみずからの発言を「デタラメ仮説」「暴走的思弁」などとことわって、批判に対する予防線をあらかじめはりめぐらせています。生真面目に褒めたり貶したりするような本ではないということでしょう。

結論的にいえば、二人の対話はデタラメの看板を掲げている割には説教臭くて、私には今ひとつ楽しめませんでした。ただ安田の能楽に関する言葉にはいくつか興味深いものがありましたので、とくに印象に残った部分を以下に引用しておきましょう。

……能で大切なのは「こころ」よりも「思ひ」です。「心変わり」という言葉があるように「こころ」の性質をひとことでいえば、変化するということです。昨日はあの人が好きだったのに、今日はもうこの人を好きになっているというように。そんなころころ変わる「こころ」などを能が扱っていたら六五〇年以上も続かずにとっくに滅んでいたはずです。能が扱うのは、変化する「こころ」の深層にあるものです。対象がどんなに変わっても人を好きになるという心的機能は変わりません。これを古語では「思ひ」と名づけました。「こころ」を生み出す心的機能です。(p149〜150)

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