暗幕のゲルニカ_Fotor

爆撃が生み出した芸術の爆発!?〜『暗幕のゲルニカ』

◆原田マハ著『暗幕のゲルニカ』
出版社:新潮社
発売時期:2016年3月

パブロ・ピカソ畢竟の傑作「ゲルニカ」。スペイン内戦中の1937年、ドイツ空軍によって行なわれたゲルニカ空爆に怒りを爆発させたピカソが描いた作品です。実物を鑑賞したことがなくても印刷物やネット上で観たことのある人は多いでしょう。

この20世紀を代表する絵画作品をモチーフに二つの物語がパラレルに語られていきます。一つはピカソと彼を取り巻く人びとの人間模様、ゲルニカの創作過程を描いたもの。もう一つは「ゲルニカ」に心を奪われた日本人キュレーターが大掛かりなピカソ展を企画し、その実現に向けて東奔西走する話。

第二次世界大戦前後の激動期と、21世紀初頭の不透明な時代。アクターは変わっても、圧政や暴力が蔓延り続ける状況に変わりはないようです。
ピカソが「ゲルニカ」に込めた心の声は世紀を跨いでも世界中の人びとに響きつづけている──。そんな作者のメッセージが聴こえてきそうです。
実在の人物と架空の人物が混在していますが、史実に基づく出来事やエピソードが作中に巧みに取り入れられています。

難をいえば文学作品としては会話や描写がいささか説明調で、読み味にややコクを欠く印象が拭えないことでしょうか。
それでもストーリーテリングのうまさで、ぐいぐいと引っ張られたのも事実。美術館で仕事をした経験をもつ作者の持ち味が遺憾なく発揮された作品といえるでしょう。

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