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ヴァンパイアの独り言

満月の夜は、好きだ。
世界を美しく、照らしてくれるからね。
でもこれが、この世で見る、最後の月になるんだ。

ヴァンパイアになって世界中を点々とし
200年と少し経った。
永遠の命に憧れを持っていた私は、自ら望んで
ヴァンパイアになったんだ。

初めは、若いままの姿が永遠に続くと思ったら
もう、無敵だと思ったね。

私をヴァンパイアにした彼と、世界中を旅した。
それはもう、色々な国を。
世界中を旅していると、時々は違う仲間に会うことも
あった。
けれども、基本はつるまない。
人間に見つかる可能性が、増えるからだ。

外出するのは、夜だけ。

なぜなら、喉の渇きが半端なくて、ヴァンパイア初心者の私は、手当たり次第に人を襲っていたんだ。
けれど、それが問題になってしまって、ある国では
ヴァンパイア狩りが、始まった。
あの時は、さすがに焦ったね。

その頃からかな、彼と意見が合わなくなってきて
よく言い合いをするようになった。

要するに彼は、人を襲うことに何の罪悪も感じては
いない、根っからのヴァンパイアだった。
私はというと、人を襲うことに躊躇して小動物の血で
今まで何とかごまかしてきた、ヴァンパイアのなり損ないだったのだ。

いつしか彼とも別れて、一人で過ごすことに慣れない
疲れと退屈が、私を蝕んでいった。
人の血を飲んでいない体は、体力がなかったが
生き物の血を飲んでいる限りは、死ねないのだ。

わたしはもう、限界だった。
終わりにしよう。

彼はどこかで、また永遠の命を誰かに分け与えているのだろうか。

朝が来たら私の体は陽の光で、灰になるだろう。
そうしたら風は、灰になった私を陽の光のもとで
人間に戻してくれるだろうか。

ああ、それにしても今夜は月が綺麗だ。






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