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短編小説

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2023年5月の記事一覧

【想い出の場所】

【想い出の場所】

 彼女と初ドライブ。名所を目指したはずが、なぜか見慣れた海辺に着いた。
 ナビの故障?

「綺麗ね」
「ま、まあね」

 ここは前職の頃よく来たのだ。
 ……人気がなく死体捨て場に丁度良い。

「ッ!?」

 視線を感じ振り返る。

「どした?」
「……いや」

 そこには苦楽を共にした、愛車があるだけだった。

【守護霊】

【守護霊】

「誰よ、その女」
「いや、知らん」
「この期に及んで言い逃れする?」
「言い逃れって……」
「もういい、さよなら」

 彼女は泣きながら俺の部屋を去った。
 まただ。同じパターンで5人にフラれている。

 決まって身に覚えのない浮気を糾弾される。
 非難の目は必ず、俺の左肩をにらみつけているのだ。

【ゲームの話】

【ゲームの話】

「新キャラ実装されるんだって。旬な声優さんがCV」
「マジか」

 教室の扉が開き、担任が入ってくる。

「今日は転校生を紹介します」
「転校生の黄島ニコです」

 先ほど友人と話した新キャラの名前と同じで、声は人気声優のそれだった。

「さっきの話って、ゲームの話だよな?」
「そうだけど?」

【人は住んでいませんよ】

【人は住んでいませんよ】

「ピンポーン」
 騒音の苦情を言うべく、隣の部屋のインターホンを鳴らす。
 応答は無く、ただ沈黙が広がるのみ。

「ピンポーン」
 別の時間に訪れても同じ結果。
 日を改めて繰り返す。
 なのに騒音は毎日のように止まない。

 しびれを切らし、大家に連絡を入れると。

「その部屋に人は住んでいませんよ」

【リアリティ】

【リアリティ】

 カッとなって夫を殺した。遺体は山に捨て、見つかることは無いだろう。

「おはよう。昨日はひどかったな」

 なのに翌朝、その夫が平然と現れた。

「なんで……!?」
「なんでって。いや、残機」
「残機?」

 呆れた様子で頭を掻く夫。

「リアル過ぎるのも考え物だな。ま、現実じゃなくて良かった」

【世界(β版)】

【世界(β版)】

 内定0の俺は、就活強者の友人にたずねる。

「なんか裏技無いの?」
「面接室で、前に一歩、右に二歩進んだ位置で回れ右して、最敬礼してそのまま退室してみろ。必ず受かる」
「なんだそのバグ技」

 後日。

「マジで受かった」
「良かった。これ使えるの、ベータ版の間だけだからな」

 ベータ版……?

【道程】

【道程】

「30まで独身だったら結婚しよ?」
「ははっ。30まで独身とか無いわ」

 そして12年後、俺たちは30歳になった。
 結婚どころか俺には恋人すらできなかった。
 だって、

「分かってたんだ。俺にはお前しかいないんだって」
「えっ」

 すると彼女は引き気味に言う。

「まだ結婚してないの……?」

【GET MY LOVE】

【GET MY LOVE】

 愛が、ずっと欲しかったの。
 でもね、ママやパパに優しくされようと、どんなイケメンと付き合おうと、愛は手に入らなかった。

 だけど、やっと気付いたの。

「元気な赤ちゃんですよ!」

 愛は、与えるものなんだ、って。
 産声を上げる我が子に捧げる。

「……愛してる」

 初めから、私の中にあったんだ。

【寝不足】

【寝不足】

「なあ、知ってるか?」

 友人は唐突に口を開く。

「寝不足になると、コミュ力が落ちるんだとよ」

 へえ、それは知らなかった。

「いきなりしゃべり出したりするんだとさ」

 じゃあ、君は今まさに寝不足なんだな。

 ……と突っ込みたかったが、虚ろな目で空中を見ている友人が恐くて、そっと無視を決めた。

【60分後の君へ】

【60分後の君へ】

「でね、彼氏がさ」
「うん、うん」

 10分後。

「なんと、私の友達と」
「うん……うん」

 30分後。

「ごめん、私の話、つまらないよね。帰るね……」
「は? ダメだよ」
「……え?」
「ちゃんと終わらせなきゃ」
「う、うん……?」
「これは」
「……」
「あなたが始めた物語でしょ?」
「進撃?」

【二種類の人間】

【二種類の人間】

「なあ、知ってるか」
「いきなり何だよ?」
「世の中には二種類の人間がいる」
「二種類?」

「自分が変態であることを隠す変態と、隠さない変態だ」

「……お前、何が言いたい?」
「つまり、お前も変態ってことさ」

「……でゅふふ。ならばお前も変態でふ!」
「ウフフ。さらけ出し合いましょう!」

【自信家】

【自信家】

 俺は編集者。将来有望な作家の卵を探している。

 ある時、小説投稿サイトを通じ、才能を感じる人と出会った。

「君、すごいね。本当にアマチュア?」
「いやいや、自分なんて全然だめです」
「それは謙遜でしかないさ」
「自分なんて芥川龍之介先生レベルでしかないっすよ」
「むしろ自信過剰だった」

【69】

【69】

 コンビニにて。
 新人バイトの俺は、先輩と共にレジに立つ。

「「いらっしゃーせー」」

 いかつい客が入ってきた。

「69番」

 なんだそれ。タバコの番号だろうか?

「……AKー69」

 銃じゃねえか。あるわけねえだろ、とまごついていると、先輩が助けに来てくれた。

「どうぞ」
「なんであるんだよ」

【トリックアート】

【トリックアート】

「これ、平面だろ」

 僕の作ったアート作品【落とし穴】を前に友人が言う。

「さあな」
「絶対に平面だ」

 確かに、我ながら高いクオリティだ。

「確かめてみろ」
「証明しよう。それっ」

 彼は穴に吸い込まれていった。

「完成」

 この作品は【思い込みという落とし穴】にはまることで真に完成するのだ。