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ポスターと牛。
たまにクライアントさんから聞かれることがあります。
「前につくってもらったチラシのpdf、あれをそのまま拡大してポスターを作っていいですか?」
わざわざ確認いただくのは、とてもありがたいのですが「基本的にポスターとチラシの構造は違っているので、ポスターに合わせてサイズの調整作業(リサイズ)を行ってもよいですか?」と返答・お願いをします。
デザイナーでない人にとっては「どういうこと?」と思われるかもしれません。
また大学でポスターの課題授業をやっていても、チラシをそのまま拡大したようなデザインを課題として提出する学生も多く、そんなときこの記事のような話をよくしています。
かくいう僕もこのことにちゃんと気づいたのはとてもとても遅く、お恥ずかしながら会社員デザイナーになってからでした。
デザイナー1年生のころ、大判プリンタのカタログ掲載用に、数cmサイズで作例として載せる架空のポスターのサンプル(大判出力はこんな用途に使えますよ的な)を、いくつも作って上司(アートディレクター)に提出したら、「これはポスターのデザインじゃないよ。」と言われました。数cmで作成していたので「小さいからポスターに見せるのは無理じゃないですか?」と反論したのですが、「そうじゃないんだよ」と。
今は当然気づいていることなのですが、これについてなかなか言語化するのが難しく。最近は比較的うまく説明できるようになったので、noteに書いてみます。
まずチラシをそのまま拡大するというのは以下の模式図のようなことですね。
![](https://assets.st-note.com/img/1710416371727-bfOfif5bnR.jpg?width=800)
これでも、なんとなくポスターのように見えなくもないです。それなりに見えてしまうのは、この図だと チラシ→ポスターにしては拡大率が低いこと、置かれた文字要素が少ないこと、デザインがシンプルなことなどが原因だと思います。
さて、発想を飛ばします。これを箱庭的な世界、牧場に例えてみてください。
あなたは牧場を自由に設計する牧場主(デザイナー)です。
チラシという小さな判型(牧場)に牛1頭と牛小屋、1本の木があるとします。
こんなイメージ。絵がへたなのはいつものことなので気にしないでください。
![](https://assets.st-note.com/img/1710416539638-bL1KHmnmha.jpg?width=800)
これをポスターにする際に、そのまま拡大するということは、極端にいえばこんな感じ。
![](https://assets.st-note.com/img/1710416628967-hYSb0ZAntV.jpg?width=800)
人工物である牛小屋が大きくなったのはわかりますが、牛も巨大化していますね。木も成長すれば大きく育ちますが、密度が小さいときのまま変わらずに大きくなっています。
チラシのデザインの展開として、大きな判型が与えられてポスターになるとき「レイアウトできるフィールドが広くなった」と捉えます。この模式図では縦横4倍(面積では16倍)ですが、実際にはA4チラシ(210mm×297mm)が、B1ポスター(728mm×1030mm)になった場合、縦横約3.47倍(面積ではおよそ12倍)となります。
![](https://assets.st-note.com/img/1710416720048-EGoZJbdvLg.jpg?width=800)
さあせっかく、ポスターをデザインできるのですから、もちろんインパクトを狙って(ちがうか)大きい牛小屋は建ててやりましょう。広いフィールドに思いっきり大きい牛小屋です。木もきっと大きく育つでしょう。でも、別に元の大きさの木が残っていても、大小の差があって楽しいですよね。葉っぱのサイズはどうでしょう。木の種類が同じだったら、大きな木も、元の木もほぼ同じ大きさ葉っぱのはずです。
牛はどうでしょうね?確かにのびのび育つとは思いますが、同じ種類の牛が何倍にも大きくなるわけじゃないですよね。
お気づきかもしれませんが、フィールドは「拡大した」と考えるより、チラシの面積が連続的につながって「フィールドが開拓された」と捉えるほうがわかりやすいかもしれません。
![](https://assets.st-note.com/img/1710417018159-vRljY2Sc5q.jpg?width=800)
ポスターでは、大胆に見せる要素と、チラシの頃とあまり変わらない拡大率の要素が出てきます。これが大小の差(コントラスト)を生み、ポスター全体にスケール感を加えるのです。また、情報量の多いところと少ないところが生まれます。せっかくフィールドが広いのですから、何も配置しない気持ち良い草原を確保するということです。これをレイアウトでは「ホワイトスペース(意図的に確保した空間)」と呼びます。また、こういった大胆なところと繊細なところを同居させることを、美術表現では「粗密をつくる」といったりします。
牧場の例だけではこころもとないので、最後は僕の実際の仕事で検証してみたいと思います。東京都渋谷公園通りギャラリーの展覧会「あしたのおどろき」のチラシ(A4)とポスター(B1)を比較してみます。どうでしょうか? サイズが異なっていると、どちらも同じデザインのようにも見えますね。
![](https://assets.st-note.com/img/1710417171989-EHd7D8STT1.jpg?width=800)
AD+D: カイシトモヤ (room-composite)
ところが両者を同じサイズに拡大(縮小)してみると、その差が際立ちます。
右のポスターの一番小さい文字(最小級数文字)に注目してください(最下段のフッターの部分)。これは牧場の例だと、牛とか下に小さく生えていた草なのかもしれません。
またさらによく観察すると、余白のとりかたがチラシとポスターではだいぶ異なっています。そのフィールドが大きい分、ポスターには潤沢な余白を持たせています。
これが、ポスターに粗密の美しさや、スケール感を加えます。
![](https://assets.st-note.com/img/1710418965850-3KUbOEPjhM.jpg?width=800)
![](https://assets.st-note.com/img/1710418999570-obVGChmMs6.jpg?width=800)
余談ですが、たまにパッケージデザイン(例えばビールの缶)なんかに、細かい文字で英語の文章が入っていますよね。あれは情報を伝えるというより、どちらかというと、デザインに粗密を加えて、繊細で完成度の高い感じを演出しているという向きが強いでしょう(ちなみに、こういった伝えるより「かっこよさ」を加えるための英語を弊社では「ちょろまかし」と呼んでいます。一部の世界では「コーポレートポエム」といったりもするらしいです。)
これは僕が適当につくった作例です(英文はChat GPTにつくってもらいました)。
![](https://assets.st-note.com/img/1710417457486-75Wqjeaq8h.jpg?width=800)
こんな感じで「ポスターと牛」の話は終わりです。
リサイズとは、単純に拡大することではなく、媒体サイズの特性をとらえて、デザインを再構築する作業ともいえます。
なので、クライアントのみなさまは、デザイナーさんにきちんとリサイズ料金、払ってあげてくださいませ(笑)
もっとデザインについての情報を知りたい方は、よければ以下の拙著もお読みください。
![](https://assets.st-note.com/img/1710417533786-nTN8rawGa3.png?width=800)
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