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君とのこと

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2020年の夏の兆しが見え始めた頃に出会った君と僕のこと
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ミルククラウン

ミルククラウン

君は転勤してやって来た新興企業のキャリアウーマン。僕はつまらないサラリーマン。君は企業からも将来を嘱望された人材。僕は君より随分年上で中小企業の平社員。

出会ったのは2020年の初夏の兆しが見え始めた頃。タイミングとしか言いようのない出会い。君は初めて着任した僕の地元に馴染めなくて仕事と寮の往復の毎日で友人もいなかった。心細かったのかもしれない。僕はどことなく満たされない感情を抱えながら過ごして

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翅脈

翅脈

秋の日差しを受けた桜の木。鉄棒にぶら下がる壮年のように重力に逆らわず数枚、枝に捕まっている。傾いて斜めに差し込む夕暮れがトンボの羽のように透き通っている。翅脈(ふみゃく)のあみだ籤(くじ)を巡る。瀟洒(しょうしゃ)で懐かしい黄金の風景がゆるやかな時間と僕の胸を焦がしていく。



君からのメールを待つ。忙しくて返信できない事など承知している。何度もメールアプリを開いては閉じる。こうなると確かだと

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人生を最高に旅しよう!テトペッテンソンを口ずさみながら。

人生を最高に旅しよう!テトペッテンソンを口ずさみながら。

誰にもいえない恋は異動フラグで終わりの予感。お互いに好きって言わない暗黙のルールを破った翌日。君から「異動するかも」ってメール。もうすぐ君と出会って一年。異動が正式に決まったと聞かされた時、外ではチョコレートも溶けるくらい温かい雨が降った。更新される季節はリールを巻くように戻すことは出来ない。新しい季節がやってきて、透き通る冷たい冬と柔らかな君が去ってゆく。



テトペッテンソン テトペッテン

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君の視界を泳ぐ単細胞生物

君の視界を泳ぐ単細胞生物

いたずらにじゃれあった夏の日が過ぎて、揺らめきたつ陽炎が夕立ちに溶ける。溶け出した夏の余韻で、すれ違う人の青い影が伸びていく。うんざりしていた蝉の声も今は少し懐かしい。朝に目覚めれば秋の虫が火照りを冷ますようにサラサラと鳴く。



今日は時間を割いてくれてありがとう。それなのに予期せぬ事があって僕は戻らなければならなくなった。

「今日は、もう帰ろうか」

行くべきか留まるべきか逡巡する僕を抱

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立秋、バロウズ、宮沢さん

立秋、バロウズ、宮沢さん

8月7日。立秋を過ぎた。暦の上では秋になってしまったけど。蝉時雨はキッチンで揚げ物してるような熱気と騒がしさ。入道雲は盛り盛りとサーティーワンアイスクリームのダブル(いやいやトリプルかも)みたいに積み重なって。向日葵は余りの暑さに頭を垂れる。まだ夏本番じゃないか。



でも、初夏に出会った君と暦の上ではあるけれど二つの季節を共有できて嬉しく思った。そう、彼女は転勤族なのだ。願わくば、秋だけじゃ

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twilight  amber

twilight amber

「もしかしたら、異動になるかも」

ちょっとした懸念だろうと聞き流せたつもりなのに、時間が経てば現実になってやって来そうで、心許ない。君がいなくなる空想は形になりそうなのに、君がいなくなった後の僕の在り処については想像がまったく出来ない。出会った時からいつかは帰ってしまうと理解していたけど、こんなにも近い未来ではないと思っていた。もう君は転勤してしまう前提で僕は考えを巡らせている。そう考えて免疫を

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月と北極星、鳳仙花の花

月と北極星、鳳仙花の花

君は夜に生きている。

見上げれば、寄り添いながらそっとついてくる。君は月のような人。そしていつかは新月のようにいなくなってしまう人。

僕は昼に生きている。
だけど君の太陽にすらなれないねって言ったら

君は笑いながらこう言ったんだ。

太陽になれないのなら北極星になってね。
いつでも私が迷わないよう、目印になるように。

そう言って君は照れ隠しに島唄を歌うんだ。

「ゆるはらす ふにや にぬふ

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奏でる音、紡ぐ言葉、哀しい予感

奏でる音、紡ぐ言葉、哀しい予感

創作の源泉は、空っぽを抱きしめた時。朝焼けに悲しい予感を覚えたり、暮れてゆく黄金の夕日に胸を焦がしたりした時。喪失感の中で美しい感情と自分を見つめてきた。今までも、これからも。

満たされてる時はいつだって奏でる音も言葉も失って生きている。

いつかくるサヨナラは奏でるべき音と言葉にしなければいけない感情を僕に与えてくれる。

溢れて、失って、そんなこと分かってても飽きる程、繰り返して

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