『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』を読んで。

書名:『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』
著者:佐藤航陽
出版社:幻冬舎
発刊:2017年11月

2022年5月19日読了。

とてつもない衝撃を受けた一冊。
読んだ当時の時点に可能な限り記憶を巻き戻して改めて感想をまとめる。

本書は第1章の章題にあるように「お金の正体」を社会構造、特徴から分析、解説したものだが、的確に抽象化されたその見方の精度が非常に高い。

これを知るだけで日常生活における消費や投資、仕事における収入と支出、マーケティングや経営といったお金にまつわる動きの理解がグッと深まる。

資本論を別として、これまで(2022年5月)当時まで読んできたお金にまつわる多くのビジネス書の類がちゃちに感じてしまうほど濃密さを感じた。

本書の要点と、組織がうまくいく5つの要素

本書の要点として挙げられる以下の要素などは、未来予測に役立ち、経営から投資、自分の職の舵取りや子供の教育まで影響してくる。

1.社会、組織などにおける仕組みがうまくいくと世の中は発展し、逆に誤った仕組みを敷衍すると悲劇が起きる。

2.お金は3つのベクトルが相互に影響し合い、未来の方向性を決める。それが強い順に「お金」「感情」「テクノロジー」。

3.経済は人間の生活を円滑にするネットワークの一つでしかない。またそれは分析対象から構築対象へと変わりつつある。

4.自律度合いが高いほど自然に近く、組織はうまく回る。誰かが一生懸命回す必要がある非自律的な組織はやがて崩壊する。

5.上手くいく経済システムには5つの要素がある。それが、1.インセンティブ、2.リアルタイム、3.不確実性、4.ヒエラルキー、5.コミュニケーション。

6.組織には、寿命があるなど代謝し循環する作用があることで持続可能性が高まる

7.テクノロジーの発展によって組織は中央集権型から分散自立型へとシフトしていく

8.これまでの経済システムは、テクノロジーの発展に伴って「資本主義」から「価値主義」へと変わっていく。

この中でも特に慧眼が光るのは5で、うまく回る組織の条件をよく見つけ出している。

自分の行動に対し素早いフィードバックがあること。
一攫千金が望める、ゲーム性やギャンブル性があること。
努力や投資したリソースに応じてステップアップし、他者に対して優越感を得られること。
そして自分ひとりだけではなく、共感を得たり協力したり自慢したりできるような、他者とのコミュニケーションの仕組みがあること。
5つの要素は上記のように言い換えられるが、「人は欲望を充足するために動く」という事実をよく踏まえていることがわかる。

ゲームを作るにせよ、新しいサービスやプロダクトに関わるエコシステムを生み出すにせよ、会社組織やコミュニティなどの集団システムを構築するにせよ、これらの要素を盛り込むほどその仕組みは人を呼び寄せ、よく回っていく。

組織は代謝し循環させる必要がある

上記の要点6は、資本主義が現在行き詰っていることの要因を理解する上でも助けになる。

長年続く資本主義体制、自民党一強の体制、陰謀論でよくやり玉に挙げられるロスチャイルド家などなど、仕組みがうまくできればそれは永続していくが、徐々にひずみを拡大させ、不満が広がっていく。
これはお金はお金を呼び、資本それ自体が増殖するベクトルに動くことから説明される。

資本はやがては寡占・独占されていき、徐々に格差は広がることになっていく。
さながら宇宙空間の塵が集まって星となり、星が集まって銀河となっていくように。
広大な宇宙空間の中の大部分は過疎であり、比較的少ない物質はお互いの重力によって集合していく。

マルクスが革命を予見したからこそ、墜落が予言された飛行機が欠航し予言が外れるかの如く、国家や組織は社会保障や労働組合といった仕組みを導入してガス抜きをした。
しかし宿命として、お金が人の欲望を燃料に更なるお金を呼んでいく以上、常に格差は広がるという潮流自体を逆転させることはできない。
社会を構成する構成員の多くがこれを理解し声を上げているうちはよいが、資本をより効率よく集めるために、都合の悪い情報は意識的・無意識的に隠蔽され、あるいは茹でダコのように気づかないほどゆるやかに、格差は広がっていく。

これはつまり、継続的に、資本の偏りをリセットするアクションが必要であることを示す。

穏やかな方法であれば、例えば白色矮星となって霧散するかのように、集まったお金を再分配すること。
過激な方法であれば、例えば超新星爆発のごとく、組織内のヒエラルキーをご破算にする、大規模な戦争や災害、革命やクーデターが、そのアクションに該当する。

資本を多く蓄えたものは、その資本を寄付という形で還元することができる。
事実、ビルゲイツをはじめとする大富豪は多額の寄付を継続的に行っている。
この寄付自体はガス抜きに相当するが、「どこに寄付をするか」というのは一部の人によって恣意的に決定されてしまうもので、自然のようにランダムではない。
川は氾濫するときに、どこの家を流すかを恣意的には決めない。

自然的な自律システムの方がよりうまく回るというのであれば、大富豪や少数のメガテック企業などのごく一部の人々がその還元先を決定するという形は、リセットの仕組みとしては不完全さを残している。

一代で成果を出し資本を集めた人であれば、豊かな生活を享受しつつ、その特権として恣意的に還流先を決める立場を得ることには、大衆もそこまで目くじらは立てまい。
しかし相続したり世襲したりといった、世代を超えて資本を引き継いでしまう行為は個人の努力から乖離し、資本の偏りを継続させてしまう。これは不満を拡大させ、危険だ。

組織をより健全に継続していくのであれば、同一一族、同一コミュニティへの相続や譲渡は禁止してランダムに社会に分配するだとか、
職権の世襲、同一政党の続行、同一ポジションへの続投といった動きも禁止する方が望ましそうだ。

自然は手入れをする方が良い

残念ながら欲望という強い動機がある以上、自分の資産は子供に受け継がせようとする。自分の子供にはより豊かな環境を与えたいと思うのは自然な親心だ。同様に、仲間、家族、同僚を有利にさせようとする行動を社会的に止めるのもまた、無理に等しい。

既に資本が偏ってしまっている以上、組織全体で完全なリセット、近年言われている言葉を借りれば「グレートリセット」的なアクションがなければ、偏りを自分の世代で正されることは期待できない。

アダム・スミスやハイエクを引き合いに、ことさら資本主義、自由主義を礼賛する人は楽観的なのだろう。

欲望は新たな価値を生み出し、不幸を解消していく原動力になるが、必ずどこかにそのエネルギー源が存在する。
何かを消費して、新たな物を生み出す。

これは弱肉強食の仕組みでもある。
肉食獣や猛禽類など、食物連鎖の頂点に立ったものは、エサが増えれば個体数を増やすが、やがては食べつくしてエサが減り、餓死し、その個体数を減らしてバランスをとる。

欲望を開放し消費を続けてたどり着く先は、弱いものを犠牲にし、エネルギーを使い果たし、食べ物を食べつくして餓死する、または自然によるなんらかのしっぺ返しを食らう未来だ。例えば温暖化やパンデミックのような。

ほどよく欲望を制御するという、痛みを全体で共有するようなコントロールの仕組み、場合によってはゲームマスターのような存在はいた方が、持続可能性が高まるだろう。民主主義がきちんと働けば安全度合いは高い。
自律分散組織も、行き過ぎたりして偏った場合には外れ値を取り除く、ズレてきた角度を修正する、などの手入れがないと崩壊が早いと考えられる。

ほったらかしの原生林よりも、適度に伐採する方が森は生き生きとするという例もある。
適度に木を切って風通しや日当たりを調整する方が、より多様性は維持され、光合成が活発化するのだ。

組織はリセットの仕組みがあった方が健全とはいえ、痛みを伴う。既得権益者の反発を招く。
そうであれば、適度に手入れする方が痛みを軽減でき、暫定処置ではあるが、組織を持続させられる。

原材料を基に新たな価値を生み出す人間の活動、その生産過程において、生じる摩擦抵抗を最小化し、エントロピー増大をゆるやかにすることが、俯瞰的に見たときのご破算を防ぐのにできる精いっぱいなことなように思う。
楽観できるのは、あくまでその範囲内だろう。

以上。


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