生きること、学ぶこと

(問い) 他者性とはなにか? 私たちは他者がいるから生きることができる。 なぜ、学びに他者性は必要なのでしょうか?


柄谷行人は、「探究I 、II」で、異次元の世界にジャンプすることの意味、「命がけの飛躍」を考える。宇宙へジャンプするのは異質な世界の存在を信じているからでしょう。バフチンの「小説のことば」から「自分のことばで語ることは他者のことばを二声的に語ることである。」とは、言い換えれば「権威的なことば(宗教、世辞、道徳のことばや父親や大人や教師のことば)は意識にとっては内的説得力をすでに失っている。」不活性のことばである。

渡辺一夫は他者の存在について次のように語ります。
「ユマニストとはわたしたちが何かをするときでも、なにを考えるときでも、かならず私たちの行為や思考に加味されてほしい態度のように思う。」議論が議論のための議論、相手を負かすための議論に歪んでいた。「それはキリストとなんの関係があるのか」という問いがたった。「それは人間となんの関係があるのか」「それは学問となんの関係があるのか」―――(エラスムス 「痴愚神礼賛」)
セバスチャン=カステヨン「我々が光明を知ったのちに、このような暗闇にふたたび陥らねばならなくなったことを、後世の人々は理解できないだろう。」渡辺一夫は「いや、われわれにもわかる。われわれも大同小異なことをし続けているのだから。」と言わなくてはならない。
モンテーニュ(エセー第三巻十章)「人々は自らの確信や判断が真実のために役に立つのではなく、数々の原理の作るものに役立てば良いと望んでいる。私はむしろ、反対の極端の方へ落ちかねない。それほど、私は、自分の願望に引き込まれるのを恐れている。その上、私は自分の願うことに対して少々敏感に警戒する。」新大陸の発見とモンテーニュ:モンテーニュはアメリカ大陸の発見の意味をわかっていた。ルネサンス期の発見や発明;地動説と新大陸の発見キリスト教の方が米国のネイティブよりも野蛮であることがいくつもの報告でわかった。」

サイードはどのように他者性を考えているでしょう。自分たちの世界を外からだけでなく内からも見る二重のヴィジョンがある。自己と他者に関する私たちの感覚。内側を再創造し続ける。」イエイツ「レダと白鳥」「学童たちに囲まれて」イエイツの詩作法は遠い歴史的な時機にまず焦点を定め、それから同時代の事象をつぎつぎとそこに付加してゆきついには新しく、しかし予想外のものであることも多いような感性の構造を創出する。」<空気中を漂う狂暴な血によってこれほど不意にさらされこれほど制圧されて彼女【レダ】は彼【ゼウス】の力とともに彼の知識も身につけただろうか冷淡な嘴が彼女をくずおれさせてくれる前に。>(エドワード・サイード「After the Last Sky パレスチナとは何か?」)サイードはほとんどプルースト的な方法で、私的に結晶化して記憶を喚起され、パレスチナ人の内側と外側を行き来し、歴史的分析を行う。そののち、疎外されて一つの回想録で詳細に語るのです。これ程までに民族のアイデンティティについて述べられたものはあるでしょうか?
 
知ることを自覚している人たちのある意味の恐ろしさ」について考える。知識、ある意味での真実、の持つ残虐性に向き合う覚悟のようなものが必要となる。レヴィストロースは「都市と野生の思考」の中で人間はどこへ行こうとしているのか、という根源的な問いを哲学的にではなく、家事的(主婦が日々食事をつくるように)考えることが大切ではないかと言う。つまり人間世界は遠大な無意識と不条理でできているのであり、現代社会はどんどんリアリティから遠ざかっているのです。

学びの他者性です。「教えると教わるは、決して対象ではない。むしろ非対称である。他者性という言葉で語られるものです。それは相手をコントロールできないからです。にもかかわらず、教師は生徒をコントロールしようと
する。 教師は十分な準備をして教室に向かう。そして予期しないことが起きると困惑する。全ての教師が経験する。予期しない質問や事態が起きるというのが社会の現実です。つまり本当の学びは予期しないことが起きてこそ行われるのです。」「ランボー「敵」に洪水が流し去った後にただ一つ残った果実。それが人と人をつなぐ希望であった。貢献度、自尊感情、感謝、慈愛などは「幸せ」と切り離せないものが日本の教育では対象とされていないのである」(柞磨昭孝)

マサオミヨシのことばを引用したいと思います。「As We Saw」の中で万延元年の遣米使節をアイロニックに読み取る。これは彼が若くして米国に移住し、世界の周辺である日本で学んだ世界観と中心の米国に入り込んで身につけた両具性により彼我の差を知ってしまったことから、「彼ら」と「我ら」の視点とは何かを内面化して考えたものである。他者性がある学びのプロセスの原点ではないでしょうか?



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