見出し画像

『職業遍歴』#17-3 大好きだった仕事

筆者が過去に経験した「履歴書には書けない仕事(バイト含む)」を振り返るシリーズ第17弾。正社員として出版社に入り、演劇雑誌の編集・ライターをしていた頃のお話です。

17. 演劇雑誌の編集・ライター

念願の正社員として、好きだった演劇雑誌の編集をすることになった経緯をこちらに書きました。↓

具体的な仕事内容や待遇、やりがい、毎日のように芝居を観ていたという話をこちらに書きました。↓

編集部には私より経験の長い女性の先輩が2人いて、2人にいろいろ教えていただきました。もう1人は私の数カ月後に入った男性で、電話をとったり発送などの事務作業も積極的にやってくれていました。

編集長は女性で、宝塚が大好きな人でした。一度『ベルサイユのばら』のゲネプロに連れて行ってもらったことがありました。素晴らしい舞台でした。

原稿を書き終えると、必ず編集長にチェックしてもらいます。編集長は大ベテランですから、的確なコメントをおっしゃってくれます。それに従って原稿を修正し、最終稿を先方に確認に回します。

先方の確認は忙しい人だと時間がかかったり、ものすごく修正を入れてくる人もいました。一方でまったく修正なし、という人もいました。私の感覚では、大物の人ほど修正なしというパターンが多かった気がします。たとえば蜷川幸雄さんは、記事に関してはライターに全面的に任せるという考え方で、修正など一切入れてきませんでした。蜷川さんは、その人の仕事というものを非常に尊重していました。たとえば脚本家の仕事を尊重し、演出に際して脚本は一切変更せず、脚本に書かれていることを忠実に舞台に現すので有名でした。脚本に「シェパードが5匹」とあれば、本物のシェパード5匹を舞台上に出すのです。

原稿チェックより大変なのは、写真チェックでした。芸能人の場合、写真の加工を要求されることも多いです。しわをとるとか顔色を調整するなどといったことは印刷所のほうで対応できますが、顔の輪郭を小さくするとか身体全体の輪郭を細くする、といった難しい加工の場合は、カメラマンさんに加工をお願いしたほうがきれいに修正できました。

そして一番大変なのは舞台写真のチェックです。後パブの場合、カメラマンをゲネプロに入れて舞台写真を撮ってもらいます。大量の舞台写真のなかから記事に使うものを選ぶのも大変ですが、その選んだ舞台写真を使ってOKかどうか、そこに映っている俳優全員に確認しないといけません。主催者がまとめて確認をしてくれればまだいいのですが、そうじゃない場合は、俳優それぞれの所属事務所に連絡をとり、確認を依頼します。舞台写真に複数の俳優が映っている場合、そのなかの1人でも掲載NGだったら、その舞台写真は使えません。

このようにして、原稿を書き、写真を選び、デザイナーにレイアウトを発注し、一部のページは編集者がDTPもして、入稿作業をしていきます。校正は編集部員全員で全ページ読んでいました。新卒で入った出版社のときは専門の校正者がいたので自分の担当ページだけ校正すればよかったのですが、この出版社には専門の校正者はいませんでした。

校正のときちょっと困ったのが、ネタバレ問題でした。後パブの記事はその舞台についてのインタビューが載っています。ラストシーンの舞台写真が載っていることもあります。ですから、まだ観ていない舞台についての自分の担当以外の後記事を読むと、舞台のネタバレになってしまうのです。これから観に行く舞台だった場合、結構台無しになります。だから私はなるべく初日に近い日に観に行くようにしていました。

入稿日が近くなると、みんな遅くまで編集部で仕事をするようになります。私はこの会社では徹夜したことはありませんでしたが、先輩2人はよく徹夜していました。私はよくみんなの分の夕食のお弁当を買いに行きました。お弁当が届くと、仕事の手を休めてみんなで食べます。このときのお弁当代は経費で落ちていました。

舞台好きな人ばかりですから、当然編集部では常時舞台の話が飛び交います。マスコミからの舞台リリースもいち早く届くし、売り込みにくる劇団も多かったです。編集部には舞台に関する情報が日々集まっていました。

そのような環境で、大変ながらも楽しく仕事をしていました。ところがそれは長くは続きませんでした。

赤字が続いているという理由で、ある日突然編集長が解任になったのです。

続く



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?