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今泉力哉「猫は逃げた」

2022年3月kinocinema横浜みなとみらいで、今泉力哉「猫は逃げた」 脚本は城定秀夫との共同。

エロスがアガペーに進化した。離婚寸前の雑誌編集者(毎熊克哉)と漫画家(山本奈衣瑠)飼猫の親権だけが決まらない土俵際、二人が新恋人巻き込み四角関係に格闘中、逃げた愛猫が登場しマルッと解決。一筋縄じゃいかない夫婦の結びつきを描いた秀作。

城定さんの作品はほとんど観ていて、今泉さんの作品はまだ少ししか観ていない私の感想だが、城定さんはロジカルで今泉さんって感覚的な人なのかな?今泉さんのホンで城定さんはサクッて撮ったぽいけど、この作品は今泉さんが城定さんのホンと格闘したような形跡が感じられた。

城定さんは愛情をアガペー(無償の愛)フィリア(友愛)エロス(男女の愛情)の3パターンを組み合わせて描こうとする。オズワルド伊藤扮するインチキそうなw映画監督が「アガペーがエロスに進化した」ピンク映画撮る皮肉をモチーフに男女の愛のカタチを面白おかしく表現した。

城定さんはVシネ時代から「こうすれば映画は面白くなる」鉄板のようなモノを持っていて、それは体系化されていて自分で撮ればスッと消化されてしまうんだけど、それじゃ面白くない。誰か他の監督が撮ったらどうなるんだろう?と思ったら意外に悪戦苦闘したのね、ってところか?

オズワルド伊藤監督がピンク映画の中で執拗に「エロスがアガペーに進化した」を連発し、その意味を同意されて大喜びするけど彼は所詮、女優とヤリたいだけのインチキ野郎でエロスがアガペーになる訳なんてない、肉欲のままに不倫する自分自身の言い訳に使ってるとんでも野郎だ!

インチキオズワルド伊藤監督と対をなすように、毎熊克哉&山本奈衣瑠夫婦も、彼らとダブル不倫する手嶋実優&井之脇海も、真面目に「愛とは何か」考えすぎて自縄自縛しちゃう。でも、猫のカンタとミミはもっと自然にエロスもアガペーも境界なく恋愛できる、なぜなら猫だからだw

私は11月にTAMA CINEMA FORUMで本作を一度、既に見ていたので、登場人物の設定が予め理解できた上で「エロス」「フィリア」「アガペー」の違いを自分なりに咀嚼しながら観たので、伝えたいこと良く分かる。このお題をまず城定さんの提示して今泉さんなりに解釈したんだよね。

「愛なのに」とセットで語られる運命なのは、演出とホンを今泉さんと城定さんがテレコで担当したからで、確かに2作品を見比べる意味はあるけど、映画祭の時に2本続けて観た時と違い、これ一本を単独で観ると、恐らく随分と色々、迷った末に書き込みをしたんだなあと感嘆したw

城定さんのホンが十分に消化されてないんじゃ?という場面も多々見受けられつつ、やっぱり痴話喧嘩とか、愛くるしい猫を劇的にドン!と登場させる感性のようなモノは城定さんの持ってないし、台詞の応酬で間の笑いを取る四角関係の男女4人が追い詰められる場面は今泉ワールド。

そして本作の裏テーマは、ウソつくことも程々に(笑)。愛する人のためならウソをついても構わないけど、程ほどにしないと自分自身が傷つくことになる。あなたの悲しい顔を見ると夜も眠れないからウソついたんだけど、ほどほどに。みんなの笑顔が戻ることが最高の幸せなんだから、自分のためでも他人のためでもない。

実はこの裏テーマ、主題歌としてエンディングで流れるLIGHTERS「don't cry」の歌詞がほぼそのまんまで、観客も見ながら「ああ、そんなことかなあ」と何となく思っていたことをズバッと言い当てる(←歌詞が英語なので、字幕に注目!)痛い所を突かれた、という所なんだよね。

私は結婚してもう25年以上も立つから、夫婦の間でウソを付かないなんてありえないし、ついたらついたで相方にバレてるとお互いに思ってるwでも、ついていいウソとダメなウソの境界線があるんだよね。若い頃ってその境界線が良く分からない。

主人公の一人、漫画家にはなったがエロ漫画書いてる山本奈衣瑠。彼女は編集者の井之脇海と不倫してる。もう一人の主人公で奈衣瑠と別居中の雑誌編集者の毎熊克哉、彼も同僚でカメラマンの手嶋実優と不倫してる。お互いの離婚協議はほとんど終わって、後は可愛い飼い猫のカンタをどっちが引き取るか、それだけ決まっていない。

奈衣瑠はもう年も年で(←こらこらw)セックス中に脚がつり、井之脇に伸ばしてもらうが上手くない。毎熊は実優と惰性で付き合っているがそっけない態度取って、実優に猫型グミを投げつけられたりする。

カンタは奈衣瑠と元の家に留まっているが、ある日、実優が奈衣瑠と井之脇の情事を激写、同時にカンタを誘拐し「タマ」と偽って自宅に誘拐するが、彼女は猫アレルギーであった(笑)

井之脇は共犯者として無理やりカンタの餌ヤリ係を強要される。毎熊は実優と「裸のピクニック ノーパン夫婦」(←しかし、なんちゅータイトルだよ、城定さんw)試写を取材に行き、オズワルド伊藤監督と対面。毎熊はヘンな映画に口ごもるが、実優は意見を聞かれ「アガペーがエロスに進化したんですね」大喜びのオズワルド伊藤(笑)

でも、これは映画の中でしつこく入ったナレーション通りであった。パパラッチとして実優が激写を狙うことになるオズワルド伊藤と主演女優の不倫。でも、そんなことより伊藤の「プラトンが考えたからってプラトニックラブは誤解されてる。エロスとは肉欲とも違う、男女の神聖な愛なのです」それは主演女優とエッチしたい伊藤の言い訳であった。

ラブホで激写の瞬間を待つ毎熊は実優のカバンからカンタの毛を発見。奈衣瑠と情事の真っ最中で餌やりできない実優が帰宅したのを尾行し、ついにカンタを取り押さえた。でも、ここからが一難去ってまた災難。

カンタが再び行方をくらまし、ついに4人の当事者が揃って、実優の毒舌独壇場「あんたが悪い」を連発し、被害者妄想まで炸裂。もう毎熊&実優、奈衣瑠&井之脇のカップルで成立なんだから、カンタが一時いなくなってくれさえすれば、万事うまくいったのに・・・

でも、カンタの存在は毎熊&奈衣瑠夫婦にはかけがえのないものだった。毎熊とカラオケに入った奈衣瑠が「生理来てないの」からの小泉今日子「あなたに会えてよかった」熱唱。その場から逃げ出したい毎熊は捨て猫のカンタを見つけ、奈衣瑠にケータイで連絡取り、彼女と結婚する決意をした。カンタとともに。

4者4様で主張が噛み合わないコミカルな論破ルームが行き詰った頃、猫のニャーという鳴き声がする。去勢していないカンタは隣に住むお婆さんの飼い猫ミミと恋仲だった。猫同士、愛を交わす声に耳を澄ましてガラッと戸を開けると、チンと座っているカンタ。

二人きりになった毎熊に漬物を出す奈衣瑠(←これ、京都じゃ早く帰れって意味?)毎熊は口下手で言い出せない。思わず奈衣瑠が「日本酒飲む?」これも井之脇が買ったのか?と問う毎熊に、奈衣瑠は答えない。男女4人の論破ルームよりずっと面白くて奥が深い。

夫婦二人の会話のキャッチボールの後、奈衣瑠は急に脚がつってしまう。カンタ探しで足に負担をかけたのだ。優しくもみほぐしてあげる毎熊は、奈衣瑠のツボを心得ていて、気持ちよさそうに顔を歪める奈衣瑠の表情は井之脇とのセックスよりエロかった。

そして1年後、カンタはあの世に旅立ち、ミミが4匹の子猫を産んだ。おばあさんは自分じゃ飼えないからと、その4匹を毎熊、奈衣瑠、実優、井之脇に1匹ずつプレゼントした。

毎熊は相変わらず雑誌編集を続け、奈衣瑠は猫を主人公にした漫画が当たって出版社を変えた。実優はオズワルド伊藤監督と主演女優の密会をスクープ「白昼の不倫、ノーパン監督」で大々的に売り出した。

思い出の河原に集まる4人。実優はいつか井之脇に入れてもらった猫アレルギーが治るお茶を、毎日淹れてもらっているらしい。井之脇が「毎熊さん、そっちはどうなんですか」「えへへ」4人はそれぞれ、新しい飼い猫と記念写真に納まった。

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