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蝙蝠ウイルスはなぜ人々への感染を続けるのか。【脚色あり】

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 オーストラリアのニューサウスウェールズ大学で蝙蝠について25年間研究している者がいた。彼女の名前はEbi。彼女はflying foxes(オーストラリアに生息する蝙蝠の種類)の観察を通して、母蝙蝠が若い蝙蝠の親代わりをする際に、栄養上のストレスを感じるのか、またそれが人々に病をもたらすウイルスの拡散に影響があるのかを調べた。

 先ほど述べた、flying foxesについてすこし加えようと思う。この蝙蝠は、サーズのような呼吸器系の感染症の宿主であるといわれている。専門家たちは、個の宿主の活動が、他の動物を介し間接的に我々人間が感染している。この現象をspillover(spill:こぼれる→コップの水がテーブルにこぼれて一面にあふれるイメージ)と言っている。蝙蝠の感染症流行の場合のspilloverは蝙蝠の生息地の減少に伴う、他の動物との接触機会の増加があげられる。

 このことに着目し、Ebi らは研究を通じてニパウイルス(蝙蝠を感染宿主とする比較的致死率の高い感染症)の流行予測〈最大2年〉とその予防策についてNatureに11月16日に発表した。

Food Stress(飢えからくるストレス)

 研究者たちは蝙蝠たちの食糧の不足がspilloverに影響を及ぼしていると指摘する。また、その原因はエルニーニョや灌漑といった環境要因が大きいと指摘し、またコーネル大学の疾病生態学者であるライナは蝙蝠たちにとって越冬ができる環境が自然界においてほとんどないことがspilloverの原因であると指摘している。

 彼らのように、ニパウイルス感染症の流行の原因を、環境要因(蝙蝠からすると外的要因)に焦点を当てると、広い視野で、今回の問題を見ることができる。

Urban Shift(都会への遷移)

 ニパウイルスは蝙蝠の糞尿や家畜への接触感染から、人への感染が確認されている。オーストラリアでは、2000年の特に冬の感染が多かったという。
 
 また、近年蝙蝠は生息地を森林や潤沢な資源がある場所から、都市・農村部へ移しており、その数は2000年と比較して、約320倍(2020年)にもなるという。さらに、冬の食糧不足による蝙蝠のストレスは、ニパウイルスの放出をさらに多くし、spilloverの増大に影響していることを発見したという。

In Search of Nectar(ネクターの研究)

 蝙蝠から見ると都市部や農村部は森林での木々の移動より、エネルギー的に費用対効果の高い(食糧の確保がしやすい)。そのため、比較的食糧の少ない冬がspilloverのリスクが高いという(蝙蝠の主食はゴキブリなどの昆虫であるため、適切な環境の存在が必要?)。

 実際蝙蝠は森林部に食料があれば、そこへ行くという。例えば専門家たちは、オーストラリアでの灌漑により2019年にspilloverのリスクがあったというが、近くの森林部の開花状態が例年より良かったため、ニパウイルスの流行はほとんど確認されなかったという。この時、240,000匹もの蝙蝠が森林へ移動したという。

 このネクターの発見は、蝙蝠と人間、ニパウイルスと人間との地球上での共存を考えたときに、新たな可能性となるだろう。

<参照>
Nature:https://www.nature.com/articles/d41586-022-03682-9
Picture:file:///C:/Users/Owner/OneDrive/%E7%94%BB%E5%83%8F/brain/d41586-022-03682-9_23701270.webp


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