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シン・九州 結 八~とある次元の物語~

結 黒船2


2024年4月3日(水) 五島列島沖に横陣した大国 太平洋艦隊に、九州連邦 大統領府は、連邦海軍第三艦隊と第四艦隊を長崎 樺島沖12海里の領海に展開しました。独立を宣言した北海道と琉球への軍事支援で派遣した第一艦隊と第二艦隊を欠いている今、もし開戦となれば、圧倒的な海軍戦力の差は本土決戦を意味します。大統領府は、大国大使館との交渉を進めながら、大国軍の上陸を阻止する防衛線設営のために、九州全土から陸軍と警察を首都長崎に集めますが、4日の真夜中になっても首都は混乱に包まれていました。

2024年4月5日(金) 12:21pm 九州大学 伊都キャンパス
荒廃した博多駅から西へおよそ18Km
春うららかな九州大学 伊都キャンパスのウエスト2号館前で、一列に止まる黒塗りのクラウンと黒い幌の5tトラック3台。
黒い幌から、全身黒の男たち50人ほどがゾロゾロと現れ、クラウンの前に整列する。全員、黒い目出し帽で顔を隠し、黒い全身タイツを纏い、腰にはヤタガラスがデザインされた大きなバックルと、銃
クラウンの窓がゆっくりと降りて、割と高めの声で
「ここタイ、こんビルば完全に封鎖せんね。誰も出したらイカンばい、誰も入れてもイカン。知能研究室は7階タイ。オイはこんキャンパスんサイバー空間ば封鎖してから研究室へ行くケン。小森を逃がしたらいかんバイ」
窓の正面にいた黒い男の「イーッ ってなるっちゃ」に続いて、黒い男たちは気をつけアィーンの姿勢から右手を掲げ「イーッ」と揃って叫ぶと、一斉にビルへと散った。
【シン・九州 承 逃亡 も読んでみて】

知能研究室で、サイバー軍と首都防衛の支援についてオンライン会議をしていた小森助教授は、突然落ちた会議に「あれっ」と、他の研究員たち同様に首を傾げている。
そして、バァァァン 研究室の2つのドアが手荒に蹴破られた。
「イーッ」「イーッ」黒い男たちがゾロゾロと研究室に乱入する。
「キャアァァ」「なんかぁぁ」「コイツら、なんショッカーの戦闘員タイ」戦闘員の一人が叫ぶ「黙れ、動くな」
それでも騒ぐ研究員たち「誰かぁ」「警察ば呼ばんねェ」
パァァーン 天井に打ち込まれた一発の銃声に、研究室は凍りついた。
その戦闘員が「無駄だ。このキャンパスも、サイバー空間も、完全に封鎖した。ネットも電話も繋がらない。全員、椅子に座れ。動くな」
戦闘員たちは、ビクつく研究員たちを椅子に縛りつける。
「ヤメんかぁ」と抵抗しても「喋るな」と銃口が向く。
小森が自分を縛る戦闘員を睨みながら「これは一体ナンのマネだ。私たちに何のようだ。何を..」
その怒りの声を遮るように、割と高めの声が床から響いた。
「アンタとこん研究室に聞きたかコツんあるト」
目の前の床が波打ち、ゆっくりと姿を現す紫の毛、白い触覚、赤い複眼
直径1mほどの頭が現れ、どれほどの巨体が続くのかと目を剥く小森と研究員たち。そして、頭の下にカワイイ足が現れ、止まった。
「えっ?」「終わり?」「コンパンかッ」 パコォーン
と戦闘員がその研究員の頭を殴り「黙れッ 我らが隊長 ウェブ男サマに失礼だぞ。いいか隊長はナ、リアル空間とサイバー空間を自由に行き来...」
ウェブ男が高いキーで遮る「お前が黙らんかぁ。ホンナこてペラペラと」
ウェブ男は小森に向き直り「早速バッテン、教えてくれんね。ツクシノシマは熊本ん健軍基地にオットね?」
後ろ手に縛られた小森はウェブ男を真っ直ぐ睨み「何のことだ」
ウェブ男はキーを上げて「トボクんな。AIミチザネも、AIツクシノシマも、こん研究室が開発ばしよったとはもうわかっトット」
小森は、特殊なホログラムで空間描画された、あまりにリアルな目の前のコンパン いやウェブ男を、睨みながらもどこか楽しんでいる。「知らん」
戦闘員が小森に銃を向けるとウェブ男は「やめんかぁ」と、さらに高いキーで制し「まぁよか、いづれわかる。こん部屋ば少ぉし調べさせてもらうバイ。アンタとアンタのアバターには、作戦が終了するまで、ココでおとなしくしててもらえば、ソレでよか」
小森は片眉を上げて「作戦?」
ウェブ男は「ふん、アンタの知らんこっタイ」
そしてボリュームを上げて戦闘員たちに「こん部屋んどっかにツクシノシマの痕跡がキットある。探せッ。バッテン、同じ九州人の血ば絶対に流したらいかんバイ」
そう言うと静かに、スゥーッと、床へ消えた。「イーッ」

しばらく、研究室の資料を乱暴に扱っていた戦闘員たちは、ピピピッと鳴った電子音に手を止め、一斉にバックルから端末を取り出し、覗き込んだ。
戦闘員たちがボヤキ出す「衛星通信バスターリンクで命令の届いとっバイ」
ゴー・イースト作戦発令っち、なんかコレ?」
「あー あれタイ、先週、メールの届いとったっタイ。熊本に集まれっち」
「あー あれね、携帯電話のドコデンば切って、USKカードも使うなち」
「鉄道もバスも使わんで、どがんして行くっちゃろね」
「オイたちもや?」「ココはどがんスッと」ガヤガヤガヤ
すると床から「お前たちん関係なかッ さっさと探さんかぁー」
にサッと散らばる戦闘員たち。
小森は後ろ手に椅子に縛られた笑えない格好で、その光景をどこか楽しんで眺めていた。

2024年4月5日(金) 17:58pm
大国ロ級原潜「上海」司令室 中央管制コンピュータ オタケ

ええェェーッ じゃぁ行き先はオヤブンがいる熊本沖の有明海ってことぉ?

10分ほど前に定期連絡で浮上した原潜艦隊に、現在進行している大国軍事作戦の全容がインターネット経由で暗号通達された。複合されたソレを盗み見して驚いたオタケは、すぐにタケルへテェへんだメールを書き上げた。

でも、このメールを出せるのは、次に原潜艦隊が浮上してインターネットの窓があいた時。  間に合うのかぁ?

2024年4月5日(金) 22:02pm 健軍基地 ジャッカル電撃隊本部棟
最上階の隊長室に、ジャッカル電撃隊リーダのひとり咲雷 吾郎
「ドガンしたとですか?」と入ってくる。
隊長の鮫井 太助の前に、リーダの 打市 文多吾妻 龍がもう腰掛けている。鮫井「すまんな、こんな遅くに」
吾妻「で、ナンがあったとですか?」
吾郎が腰掛けると、鮫井は困った顔で「ウム 先ほど、すぐそこの州警察本部から『近隣住民から”水前寺公園に怪しい連中が集まっている”と通報があったので、ジャッカルに調べて欲しい』と要請があった」
打市がいきなりキレる「そがんとは警察ん仕事でしょうが」
鮫井はヤレヤレと「大国の艦隊騒ぎで、警官はあらかた長崎に送られて、ほとんど残っておらんのだ」
吾妻「あぁ〜」
吾郎「陸軍も似たようなもんタイ」
打市はバッと立ち上がり「ションなかぁ、そしたらオイが行ってパッパッと追い払ってくるケン」
「ザッと300人はいるわよ」「ヘッ」
もう一人のリーダ美月 可憐が後ろのドアから入ってきて
ドコデンの移動履歴とUSKカードの使用履歴をサイバー軍に調べてもらったの。水前寺公園にいるその不審者たちのほとんどは、なんショッカーの疑いがある連中よ。でもマヌケよねぇ、こっそり集まるんならドコデンもUSKカードも使わせないでしょ、普通」
吾妻「じゃぁ、あの、えっ?健軍基地攻撃の機密情報は、本当やったと?」
【シン・九州 結六 前夜2 も読んでみて】

可憐「みたいね、サイバー軍は全く掴んでなかったって」
打市「ったく、役ん立たんバイ」
可憐「さっきテレビで、九大工学部がなんショッカーに占拠されたってニュースが流れてたわ。なんショッカーが今日に照準を合わせて動き出したって感じね」
吾妻「よりによって、こがん時に」
打市「ヤツらから見れば、これほどん好機はナカばい」
可憐「でも、なんショッカーが大国と組んでるとは思えないわ」
吾郎はゆっくり立ち上がり「考えるよか動かんば。いまこん基地ば守れるとは、ジャッカル電撃隊だけタイ」全員がうなづく。
鮫井も立ち上がり「全員、直ぐにジャッカルを集めろ。これから作戦会議だ。吾郎 陸軍のドローン部隊に水前寺公園を調べてさせろ。すぐにだ」
吾郎は「はッ」と敬礼で応えた。

そして運命の 2024年4月6日(土) が始まる

0:00am 健軍1丁目X-Y
ピィーーン 武のパソコンに、メールの着信がポップアップした。
Subject:「オヤブン テェへんだ」
横のベッドで、ぐっすりスヤスヤと眠る武。独立記念日のお祭り騒ぎと、連日連夜Knetを見廻るサイバー防人で、がっつりクタクタの武。

オヤブゥーーン オォーーイ チョットォーー
オタケの声は...届かない。

6:00am
九州連邦のサイバー空間全域に散らばる黒いタマゴ赤いタマゴがカタカタと動き出す。

去年の夏、ジャバン サイバー軍は、麦国のサイバーエージェントが開発したAI型アバターを改造して、偵察型と攻撃型のAIアバターを生み出した。そして、これらのAIに進化するDNAと作戦開始時刻を刻み込んだ単独ウイルスを作り出すと、賀酢首相を経由してなんショッカーにそのデータを渡した。その秋、なんショッカーは、言われた通りに連邦じゅうのアクセスポイントから単独ウイルスをKnetにばら撒いた。単独ウイルスはKnetを漂い、侵入できそうなサーバーを見つけると偵察型は黒いタマゴに、攻撃型は赤いタマゴに進化した。偵察型の一部は、早々と孵化して偵察型AIヤタガラスに進化すると、Knetを巡回して手に入れた情報をタマゴたちにセッセと渡した。USKサイバー軍やサイバー防人の消毒活動でかなりのタマゴは消滅したが、生き残ったタマゴたちが、この日の6:00am に、作戦を開始したのである。

次々とサーバーに侵入し、黒い光を放って孵化する黒いタマゴたち。
黒い光の中から、真っ黒な3本足のカラス偵察AIヤタガラスが現れる。
九州全域のサイバー空間を、無数に飛び交うヤタガラスの群れ。
ヤツらの攻撃目標は、AIミチザネ
AIツクシノシマの情報源であるミチザネの息の根を止めて、ツクシノシマを孤立させるために。
黒いタマゴの時に、巡回ヤタガラスから刷り込まれた、攻撃するミチザネの居場所へ、ヤツらは真っ直ぐに飛び立つ。
ミチザネ・サーバーは、各州政府が管轄するデータセンター内に奉られ、州民データベースとリンクしている。
ミチザネへのサイバー攻撃は、九州全土で同時多発的に始まった。
ヤタガラスが放つ最新のサイバー攻撃は、データセンターを守るひと昔前のセキュリティを次々と破壊していく。
各州政府は、大統領府へサイバー軍の応援を要請するが、サイバー軍にはすでに余裕はなく、サイバー防人にもデータセンター守護要請が届いた。

「なんね、8人しかおらんと!?」
大統領府付近のサイバー空間に駆けつけたホノカは、サイバー防人のメンバーを眺めて呆れた。
ホノカのアバター 白い猪のイブキが、目の前のヤタガラスを バァァァンノイズ砲で仕留めながら「こん非常事態に、他ん人はナンバしょっと!?」とボヤく。
イブキの横で、ミナミのアバター 熊のハヤト冷凍カプセルを投げながら「朝早いからね。みんな夢の中だよ」
イブキはカッカしながら
「だよ..やなかバイッ。なんでんよかケン、全員叩き起こさんねッ」
と、怒鳴りつつ バァァァン 「ムロイさんもタケシもおらんバイ」

ムロイ…九州連邦放送協会 KHK報道局プロデューサー 室井 剛はこの時、人気番組『突撃!隣の大統領』の収録で、最後の大統領候補へのインタビューに、車で熊本へ向かう途中、サービスエリアで局カメラマンの竹田 鉄雄や守下 恵梨奈アナと一緒に、爆睡していた。
明日4月7日(日)はいよいよ、大統領選挙だ。

ハヤト「それと、小森先生にも連絡がつかないんだ。オンライン教室にもログインできないんだよ」
イブキは「えっ、助教授も? どがんしたっちゃろ」
と驚きながら バァァァン と攻撃の手を緩めない。
次々とヤタガラスを倒すサイバー防人の勇敢な姿を、USKサイバー軍は見惚れて眺めていた。


そして、九州各地で僅かに生き残った赤いタマゴは、ヤタガラスがサイバー空間を暴れ回る混乱の中、各地の情報を抱えて、首都長崎へ向かってゆっくりと動き出した。

6:00am 水前寺公園
紫の空に日の出の光が差す肌寒い公園に、300人ほどの怪しい人影がウゴメき、所々 違法な焚き火で暖を取る無法な連中が、ザワめいている。
公園の富士築山に設営された大きなタープテントには、作戦本部 と手書きのノボリが立っている。
タープの下で、なんショッカー幹部 慈国 大志が、ガラガラヘビの戦闘コスチュームに身を包んで、隊長たちを待っていた。
大志が「遅かッ、作戦開始の時刻タイ。クモ男ハチ女はナンバしちょっとかッ」と目の前のバッタ男に怒鳴ると、戦闘員の一人が駆け寄り
「申し上げます。クモ男サマは、すぐそこの出水神社に篭られて願掛けをされています。ハチ女サマは『朝ゴハンは大事だっちゃ』と小隊全員で朝食の支度を始めたところです」
大志は「なんかぁそいはぁ」と呆れ声で返すと、戦闘員は「それと、戦闘員の服がまだ届いていない者もおり、準備にまだ暫く掛かるかと」
大志はガクッと首を垂れて目を瞑り「はぁぁぁ」と大きくため息をついた。

7:00am 大統領府付近のサイバー空間
九州各地から首都へ集まってくる赤いタマゴたちは、途中で出会うと情報を共有してひとつのタマゴへと融合する。集合地点の大統領府前で全ての赤いタマゴがひとつに融合すると、大統領府のサーバーへこともなくサッと侵入し、首都のサイバー空間を染めるほどの赤い光を放って孵化した。
だんだんと鎮まる光の中から現れる、真っ白な豆芝犬のAI型アバター。
豆芝は、大統領府の全てのモニターを占拠して、自分の可愛い顔を全モニターに映し出した。
なにごとかと驚き、ほっこりとモニターを見つめる大統領府の職員たちに、全てのスピーカーから、あの二人への挑戦状が、その可愛い顔とはかけ離れた重低音で鳴り響いた。
「我は、戦闘AIヤマトタケルである。これより西方の蛮族を討伐する西征を展開する。暫定大統領 よく見ておくがいい。この国の本当の支配者、AIツクシノシマが滅びる姿を」
暫定大統領 長崎 チャンポンと皿うどんは狼狽えながら
「なんかぁ お前はぁ。どっから来たとかぁ」
豆柴はさらに低く「我は、ジャバン サイバー軍の軍神。この国を、ジャバンに帰する者なり」
チャンポンが「そがん勝手が通ると思いヨットッ。だいたい、ツクシノシマん居場所の分かるもんね」
豆柴は少し笑い「ふんッ、そんなこと。すでに特定している。これより健軍基地へツクシノシマ殲滅に向かう」と言い放つと、モニターはフッと元の画像に戻った。
「健軍...基地?」チャンポンと皿うどんは見つめ合い、プッと吹き出した。

7:54am 水前寺公園
「なんしよったとかぁ」
最後に作戦本部タープに入ってきたハチ女に大志がキレた。
「女の朝は、色々忙しいんダッチャ」と悪びれもせず、青い髪と触覚をかきあげながら、綺麗な瞳でサラッと言い返すハチ女
その態度に怒りが増して「作戦開始は6時やち言いよったろうがッ」
ハチ女は背中の羽を広げて、少しイラッと「ウチも急いでやたんダッチャ」
大志は、さらにブチっと「もうサイバー軍は健軍基地にサイバー攻撃ば仕掛けよっとゾッ。同時攻撃の約束やったとに、どがんスッとかッ」
ハチ女は綺麗な顔を怒りに変えて、蜂模様のビキニから伸びる尻尾の真っ黒な毒針を大志に向けて「サッサと始めるっチャ」と凄んだ。
「あ”ぁアァぁ”ああぁ」「なんチャァぁぁあ」
怒りのオーラを噴き出し睨み合う二人に、バッタ男クモ男は思わず
「マァまぁマァまぁ」と止めに入る。
大志は「こん遅れはキッチリと戦闘で返さんかぁ」とハチ女に吐き捨て、成趣園池の前に並ぶ300人の戦闘員に向き直り
「時は来たバイ。これよりゴー・イースト作戦ば展開すっタイ」
最前列の戦闘員の「イーッ ってなるっちゃ」に続き、全戦闘員が気をつけアィーンの姿勢から右手を掲げて「イーッ」と声を揃えた。
大志は「計画通り、ハチ女小隊は熊工北門通りを、クモ男小隊は県庁通りば、バッタ男小隊は健軍神社参道に」
大きく息を吸って叫ぶ「進めぇぇぇぇ」「イーッ」

3つの小隊は、意気揚々と土曜日の静かな朝の街を、健軍基地を目指して進軍を開始した。

対空中戦バイオ兵器 ハチの改造人間 ハチ女は、ビィィィィ と羽根を鳴らして熊工北門通りをゆっくりと飛び、その下を100人ほどの戦闘員が隊列を組んで、武器を持ち上空の隊長に遅れまいと小走りについていく。

対都市戦バイオ兵器 クモの改造人間 クモ男は、赤い顔に青い複眼で、赤と青のバイオスーツに身を包み、全ての関節から数トン重さを吊り下げられる強靭な粘着バイオワイヤーを吹き出し、次から次へと繰り出すワイヤーを伝ってビルからビルへ自由自在に飛び移って進んでいく。<エッ?>
クモ男小隊の戦闘員たちは、隊列を組む暇もなく隊長を見上げながらダッシュでついていく。

対野戦バイオ兵器 バッタの改造人間 バッタ男は、人間サイズと2本足で立つこと以外、見てくれはほぼトノサマバッタである。その脅威的な脚力は、1回のジャンプで4階建てのビルを楽々と越えていく。ただ、これしかできない。有刺鉄線で守られた基地の塀を越えることしか。バッタ男小隊の戦闘員たちは、走ってはバッタ男がジャンプから降りてくるまで立ち止まる、という間欠動作に飽き飽きしながらついて行く。

そうして進む3つの小隊は、熊本東バイパスの手前で進軍を止めた。

「やっと来たバイ」と吾郎がトランシーバにボヤく。
なんショッカーの3つの小隊の目前には、熊本東バイパスを挟んで、すでに迎え撃つ準備を終えたジャッカル電撃隊が待ち構えていた。
いや、待ちくたびれていた。
トランシーバで声が行き交う。
吾妻「なんばしよったっちゃろか」
吾郎「普通やったら、夜明けと共に始むっタイ」
吾妻「あれ、なんか止まったバイ」
可憐「こっちも止まったわ」
吾郎「こっちもバイ。なん考えとっちゃろ。どがん作戦ね、こいは」
打市「どがんもこがんもなか。さっさと片付けるったい」
可憐「待って、何か意味があるのかも」
鮫井「そうだな、少し様子を見よう」
打市「いつでん攻めらるるっごと、変身しとくタイ」
可憐「そうね」  4人揃って「ヘンシン」

熊工北門通り ハチ女を迎え撃つ美月 可憐は磁力の戦士アートクイーンに、
県庁通り クモ男を迎え撃つ打市 文多は怪力の戦士クローザーキング、吾妻 龍は電力の戦士ライヤジャックに、
神社参道 バッタ男を迎え撃つ咲雷 吾郎は原子力の戦士スピードエースに、
変身した。
各隊50名ほどの隊員で、計200名超のジャッカル電撃隊が、健軍基地への道を守る。

なんショッカーとジャッカル電撃隊は、熊本東バイパスを挟んで、どちらも動かず、睨み合いは続いた。

ジャバン軍の作戦では、8時の時点で、9つ全ての州のミチザネ・サーバーを破壊し、なんショッカーの実空間での基地攻撃に続いて、健軍基地へのサイバー攻撃が始まっているはずだった。
ところが8時を回っても、3つの州しかミチザネ・サーバーを破壊できず、おまけに、ツクシノシマ殲滅作戦の司令塔 ヤマトタケルを、大統領府から健軍基地に道案内するヤタガラスがミチザネ攻撃に夢中になってしまい、お迎えをすっかり忘れるという大失態をやらかした。
とんだポンコツAIである。
真っ白な豆柴は、威勢よく暫定大統領に啖呵を切ったものの、大統領府から動くに動けず、サーバーの中で小さく隠れてお迎えをずっと待っていた。
真っ白な豆柴 ヤマトタケルが、10匹の真っ黒なヤタガラスを引き連れて健軍基地サイバー空間に現れたのは、9:07amだった。
そして、遅れに遅れて、健軍基地へのサイバー総攻撃が始まった。

結 九「オヤブン、テェへんだぁ  Fri. 5 Apr 2024 23:55:50」につづく

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