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シン・九州 結 参~とある次元の物語~

結 モノローグ 1

2024年2月6日(火) 15:24pm 健軍1丁目X-Y 東家
「ただいまぁ〜」ダンダンダンダン は階段を駆け上がり、部屋の隅にランドセルを放り投げて、机のノートパソコンを笑顔で開いた。

「ん?武ぃ?帰ったのぉ? っとにもう最近パソコンばっかりなんだからぁ」と、玄関から2階を見上げて居間に戻る京子

真夜中、ようやくスリーナインが完成したんだ
夜12時にガスが止まって暖房が切れた後は、寒くて布団をかぶりながらデバッグして、「できたぁ」って背伸びしたら、そのまま机で寝ちゃった
朝、ママに無理やり起こされて…怒鳴られ揺らされツマまれヒネられ…
寝ぼけながらパンをくわえて登校するなんて、小学4年生のすること?

大栗 駿たちに、10歳の誕プレでもらったノートパソコンに夢中になった武は、父親のDNAなのか、参考書とKnetを検索した知識だけで、プログラミングをスゥーッとスポンジのようにカラダに吸い込んだ。
マジメな課題にも直ぐに飽きて、チョイ悪な腕試しを始める武。
アクセスポイントの近くにあったKnet接続サーバーをハッキングしてみると、サクッと侵入できて、幾つかの通路をクラックして、偶然開いたドアの先に、Knetのサイバー空間が広がっていた。
ウィンドウいっぱいに、サイバー空間を流れていく無数の情報…得体の知れない記号の羅列たちを、飽きずにズーッと眺める武。
長ぁいのや短いの、小っちゃいのやデッかいの、速かったり遅かったり、流れていく記号の羅列が大好きな電車のように見えた武は「これだ!」と瞳を真ん丸にした。
瞳の奥で、サイバー空間を流れる情報たちを、宇宙空間を駆ける999みたいに変換するアプリが、閃いた。

ワクワクでノートパソコンを開く
真っ黒なディスプレイに映る僕の満開な笑顔...ぉいぉい…
真顔に変えて、パワーオン
ウィンドウを開いて、ハッキングして、通路を通って、ドアを開ける
Knetサイバー空間を流れる無数の記号たちを目で追いながら、別のウィンドウでスリーナインを起動
ディスプレイ全体が、ゆっくりと星が瞬く宇宙空間へ変わってく
流れる記号たちに、色んな図形が貼りつき、色が塗られてく
右から左へ流れる一番手前の情報の列が、ゆっくりと、青い車両になって、目の前を真っ青な山手線E235系0番の電車が通り過ぎてる
「ヤッタァ! いいジャンいいジャン」
長ぁーく青い山手線「青いE235だから...病院の電話かぁ。長電話?」
目の前のE235が通り過ぎると、パッっと目の前が開け、空間がズゥーッと奥まで続いて、電車がたくさん、右から左へ、左から右へ、わぁんと走ってる
「ワァーオ」
「隣は緑の湘南新宿ラインE231系だから...役所のメールかぁ。…長っ」

矢印(↑)キーで視点を上げる
「うゎアァァァ」
モノ凄い数の電車が層になって遥か上空まで続いてる
「スッゲーッ、広ぇぇぇ」
一番高いところを凄いスピードでオレンジの東武 東上本線10005型が走る
連邦政府の恵み情報かぁ、上の層に行くほどスピードが速いんだナ
わっ、車両の中はが詰まってる オモシロぉ」

↓キーで下を見る「深っ」
無数の電車が層になって、深ぁーい底へと重なってる
層が下がると、青、藍、紫へ色が暗くなって、電車もドンドン遅くなる
一番深いところをチンタラ走ってるのは、紫の丸ノ内線2000系 一般のライブカメラだ
小っちゃくてよく見えないけど、なんか海の映像っぽい
その上を走る紫の西武 池袋線001系Laviewは、一般のSNSメッセージ
その横を紫の猫が飛んでる「一般の猫の検索パケットかなぁ」
情報の種類はまだまだ色々ありそうだから、よくわかんないヤツはIPパケットの雰囲気をイメージにしてみた、けど
「猫は飛んじゃダメだな 3Dモデルで走らせてみるか」

しばらく見惚れてから↑キーで視点をゆっくり上げると、オレンジの東武鉄道のその上を、真っ赤な山手線E235の群れが、さらに速く通り過ぎた
「何だあれ? 赤は..不明..の電話..の群れ? 早口で怒鳴ってる? オモシロぉ」

その少し手前、ちょっと上の層を黄色い有楽町線10000系が走ってる
黄色は…州政府の、有楽町線は...国民情報…乗ってるは大学生かなぁ
ん? 何だあれ、隣を赤いのが...ユラユラ飛んでる...目玉?

と、その赤い目玉の動きが止まった
あれ? なんか今 こっちを見たような…
そして、スルスルッと...だんだん大きくなりながら
こっちに「へっ?」降りて「えぇぇ」きた

武がのけぞると、赤い目玉はディスプレイの下へスッと消えた。
「何だよ、脅かすなよ」
と、覗き込んだディスプレイの下から、ヌッと、緑の顔が浮んだ。
「わぁぁぁ」
ドーンと椅子ごとひっくり返る武。でもディスプレイから目は離さない。
葉っぱのツリ目、葉っぱのタラコ唇、葉っぱのハイリア耳とトンガリ鼻、
そして葉っぱのリンク帽子。

その葉っぱの顔は、ディスプレイの中をぐるりと見渡すと、武を向いて
「どうしたの コレ?」
武「あわわわわ 喋った まだ音は...プログラムしてない...えっ?」
葉っぱの顔「これはアバターのモーリー。今、君のパソコンに侵入した」
武「へっ、アバター? 侵入?」
モーリー「Knetを監視センサーでパトロールしてたんだ。君は自分が何をしたのか、わかってるの?」葉っぱのツリ目が睨んだ。
武は一瞬で状況を理解して、ハの字の眉と涙目と、への字の口と鼻水で
「ごめんなさい、ごへんなちゃい、ごれんなしゃい」
モーリー「うーん、素直なのは良いけど、ハッキングはよくないな」
「ごれんなちゃい、ごへんなしゃい、ごへんなたい」
モーリーは厳しく「で、君は誰? どこでこれを? 何をしてるの?」
武は、鼻水を啜り、シャクりながら「僕は..東 武..です..健軍小学校の..4年生です..今年のお正月に..もらった誕プレが..パソコンで勉強が..ちょっとイタズラで..ちょこっとハッキングの..サイバー空間..出ちゃって..そ.そしたれ記号が..た.たくさんが..大好きで999の..見たくて...」
話しているうちにまた涙が溢れて、への字の口で
「ごれんなたい、ごへんねたい、ごげんががい」
モーリー「ちょちょちょ、えっ なに、これ、君が作ったの?!
「ふぁい」
「正月からって、たった1ヶ月で!?」
「ふぁい」
「君がハッキングしたの?」
「ひゃい」
「どうやって?」
「telnet..ポート..ヒッ..ゆるゆるげ」
「ゆるゆる…」モーリーは振り返り、ディスプレイの電車たちを見ながら
「嘘だろ、小学4年生が、これを たったひと月で…アハ アハハハ」
「ふぁい?」
「初めまして武くん。僕は九州大学  工学部 知能研究室の小森です。
いま福岡州に居てモーリーで君とリンクしてるんだ。もっと話そ。
君には教えたいことが..たくさんある」

2024年3月8日(金) 15:03pm T棟 制御室
「お先にぃ〜」「お疲れ様ぁ〜」「失礼しまぁーす」
ニッコニコだなぁ…ぉい
「ねぇ、ちょっと!? た 頼んでおいた、エネルギーサーバー室のメモリボードの こ交換は? 恵みサーバー室の く空調の修理は? 電源室の監視ログの ほ報告書もまだ出てないよ おーぃ」
...
「ウソだろ、帰っちゃったよ。ったくなんだよ毎日々々、んとにもう...」
トンッとコーヒーを置いて「まぁまぁ、そがんボヤかんと 局長」と松元帆香 副局長のニコッが和ませる。
この笑顔がなければ、とっくの昔に逃げ出してる
「今日は、い 良いの?」
「昨日は西都病院の手伝いでおらんかったバッテン、今日は良かよ」
「悪いね、た 助かるよ」
「じゃぁメモリボードの交換ね?」
「いや、そ そっちよりDMZのファイアウォール制限がお おかしいんだ。
ちょっと診てくれない」
ニコッと「うん」...たまらん

この制御室の職員で、ICT教育を受けてるのは僕と帆香さんだけ
他の3人はITの素人だから、補助的な仕事をやってもらってるのに、
早いヤツは配属されて1週間で、長くても3ヶ月ぐらいで異動願が出てくる
「仕事が難しか」とか「コンピュータは使えん」とか「上司ん何ば言よっとかわからん」とか、言いたいこと言いやがって...
セキュリティ本部に「教育してから配属して」って言っても、"補充してやってんだゾ感"満載でまた新しい素人が補充される
だいたいが父割だの母割だの言ってくるヤツらで 3時間から5時間くらい働いてサッサと帰っちゃう いや"働いて"というよりは"居て"に近いかナ
指示した半分もやってくれない
資本主義なら対価って査定で操れるんだろうけど、この国は働き手優位だから、結局指示命令側が"ちゃんとしろよ"って目で見られる
はぁ...やってらんない
だから、T棟のIT業務は僕と帆香さんでなんとか維持してる
ほんとはT棟の防御や信頼性を次の段階に上げたいのに、それどころじゃない、維持するだけで精一杯、僕も帆香さんも、すでに違法な残業でブラックにまみれてる
ちなみに帆香さんはITエンジニア兼医師という異例の経歴の持ち主
T棟局の副局長と医務室主任を兼任してもらってる
よく首に聴診器を巻いたまま、制御室でIT業務をこなす姿を見かけるけど、なんかカッコいい
この愚痴らないポジティブな美人は、いまの僕の心の支えも兼任してる
本当なら8人ぐらいは必要な制御室なんだけど、T棟の特別なセキュリティのおかげで、維持だけならなんとか2人でこなせてる
ギリギリなんとかね...

このT棟、正式名称「ツクシノシマ・サーバー棟」は、簡単にいうと、
連邦すべてのエネルギー情報、恵み情報、国民情報を入力すると、
生産と分配と輸出入の計画を出力する機械
いわゆるクラウドサービスのように誰からでも見たり使えたりできるようなシロモノじゃなくて、その機能は巧妙に隠されてる
まず、Knetを流れる三大情報[エネルギー,恵み,国民]は、宛先が連邦政府になっていて、このT棟の玄関前を通るようにルーティングされてる
T棟玄関のKnet接続サーバーは、Knetを覗き見して、三大情報を見つけると通り過ぎる情報をコピーしてT棟へ引き入れる
要するに、もし追跡されても、三大情報がT棟へ入るようには見えない
T棟へは、メールぐらいしか届かないように見える
すべてはAIツクシノシマの居場所を特定されないために

T棟へ引き込まれた三大情報は、DMZ(非武装地帯)のファイアウォールを通ってT棟内部ネットワークTnetに入り、エネルギーサーバー, 恵みサーバー, 国民サーバーへ仕分けられ、記録される
ここには連邦の今と、今に至る足跡が記録されてる
Tサーバーに祀られたAIツクシノシマは、Tnetを経由して三大情報を読み出して、明日の、1週間後の、1ヶ月後の、1年後の、10年後の未来を計画してる
そしてこの計画情報は、T棟の玄関を通ることなく、Knetを経由して、連邦すべてに通達される あるユニークな仕組み
去年の6月、サイバー軍に入隊した...いや させられた時に、田柴大佐からこのT棟の役割と仕組みの説明があった
機密保持にサインさせられ聞かされたAIツクシノシマの存在には驚いたし、制御室メインモニターに映し出された計画の細かさとそのボリュームに、人の力を超えた存在を感じた
大佐が熱く語っていた新しい社会主義には、全く興味はなかったけどね
その時は、AIツクシノシマは計画を策定する、ただそれだけの人工知能だって、そう思ってた あの日、9月4日までは

2023年9月4日(月)13:20pm
帆香「監視サーバーから、Tサーバー室373ラックのCPUボードを緊急で交換しってち依頼が出とうね」聴診器を首に巻いたままこっちを見る。
西「こ この前替えたとこジャン、またぁ?」
帆香「まぁ学生の修理っちゃ、そがんもんたい」
西「もうぉ、じゃぁこのメ メールサーバーの設定が終わったらね」
帆香「何言いよっと、緊急バイ、直ぐタイ。サッサとせんね」…はぁ

交換用のCPUボードを抱えて、エネルギーサーバー室の奥にある巨大なTサーバー室に向かう途中、帆香さんとサーバー通路を並んで歩く。
帆香「ここんとこ、おかしかコンピュータウィルスが単独でKnetばウロツいとっとは気づいとう?」
西「こ この前セキュリティ本部から、つ 通達が出てたね」
帆香は目を剥き「聞いとらんバイ」
「ごめん、て 転送すんの忘れてた」
「バッテンおかしくなか?メールやファイルの添付やのうて、単独のウィルスがどがんして感染すっとね?」
「で 電子抗体が、ノイズ攻撃で単独ウィルスを消しているみたい。
たぶん感染のために べ 別の媒体が潜んでいるんじゃないかって。
今、サイバー軍がウィルスコードを し調べてるとこ」
「ふーん、なんか新しかIT時代の始まっとっとかねぇ」
ガチャと二人はTサーバー室に入った。

T棟は、およそ2万キロワットの電力を消費してる
その半分、およそ1万kWをTサーバー室が使ってて、その4割をTサーバーが、5割を冷却用の空調が、残りはUPSと照明
Tサーバー室には、将来1000台のサーバーが入るように設計されてて、現在は400台ほどが稼働してる
省電力のため部屋は青く薄暗い
この400台のどれがツクシノシマ・サーバーで、どれが計画サーバーなのかは僕らには何も知らされてない
増設した時のサーバー設計が必要ないなんて、いったい...

「ここタイ」帆香さんの声でモノ想いから我に返り、373ラックのCPUボードを交換したその時、停電が起きた。
時間にしておよそ10秒。空調の音が消えた暗闇に平衡感覚を失う。
「停電なんて初めて...」を帆香さんの「シッ」が遮る。
「なんか聞こえる、この辺り...」
と、そこで照明と空調が復旧した。
赤いコードを握り、耳にあてる帆香さん「えっ、アナログの音声信号?」
僕は、帆香さんの首からそっと聴診器を取り、それぞれ片方の耳に入れ、顔を寄せて赤いコードに聴診器をあてる

『減り続ける人口に増え続ける高齢者、ジャバンは滅びゆく国やな』

ヒソヒソ声で「えっ!?」「誰っ?」と見つめ合う

『結婚の増えたとは教育だけではなかやろバッテン、若かモンが安心できるっち感じとっとやケン、嬉しかこったい』

「暫定大統領の声んごた」と帆香の大きな瞳 「だ 誰と話してんだろ」
しばらく耳を澄ませる

【シン・九州 転 八 も読んでみて】

【なんなら最初から読んでみて】

そして、

ツクシノシマにはわからんバイ。人はそがん風にはできとらんと』

に、ギョッとしばらく見つめ合い、ソソクサとTサーバー室を出た。
制御室で、二人の興奮した頭を小一時間ほど掛けて整理した結論は、

「AIツクシノシマは未来を計画するだけじゃない。大統領にサシでモノが言える、大阪弁のブレインだ」

それにしても、あんな音声の専用線があったなんて
おそらくツクシノシマの存在を特定されないために、敢えてアナログ信号を選んだんだろう
あの赤いコードがどうやって大統領と繋がっているのか、調べないと


結 四「この国が壊れたら、何も持たずに、何の保証もない世界に投げ出されたら」につづく

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