第88話 兄:父に強く、母に弱い

 じゃんけん。
 グーはチョキに強く、パーに弱い。
 チョキはパーに強く、グーに弱い。
 パーはグーに強く、チョキに弱い。
 兄は…母に強く、父に弱かった。

 兄が思春期の中学生を迎えてから、兄はいつも母と言い争いをしていた。
 とにかくいつも言い争い。
 何を怒っていたのかは知らない。
「またやってる」
 ボクは他人ごとのようにゲームしていた。

 兄との言い争いを終え、母はボクら兄弟の部屋から出てくる。
 すると、
「——ドン!!」
 母がいなくなり、部屋1人になった兄が怒りをぶつけるように壁を殴る音が聞こえる。
 母はあんにゃろう!!という顔をしてまた、兄のいる部屋へ向かって行く。
 再度、バトルしていた。
 2回目のバトルを終え、母が戻ってくると、また兄の壁を殴る音が聞こえた。
 さすがに母も疲れたのか、ため息を漏らしていた。

 こんな兄だが、父と言い争いをするところはあまり見たことがなかった。
 多分小さい頃にコテンパンに怒られたのだろう。
 その記憶があるせいか、父の言うことは素直に聞くじゃないけれど、まぁ大人しくしていた。

 そんな兄も大学生になると、母と言い争うことが全くと言っていいほどなくなった。
 兄が丸くなったというか、大人になったということなのだろうか?
 ボク自身も兄に接しやすくなったのでいい変化だと思った。

 逆にボクはと言うと、父に強く、母に弱い。
 父はボクに甘かった。
 優しいのだ。
 それほど父と言い争いをすることはなかったが、するなら父ばかりだった。
 うん、甘かった。

 逆に母親に対しては、てんでダメだった。
 もうぐうの音も出ない。
「ごめんなさ~い」
 の一言。
 情けない話、一言も言い返せなかった。
 もうね、社会人になるまでずっと。
 いつも非があるのはボクだから、それが胸につかえて無理やりねじ伏せようという気は起こらなかった。
 ただただ、許してもらえるのをじっと待つといった感じだった。

 まぁ何にせよ、母は強しということだ。

 ちなみにボクは女性全般にいつも負ける。
 初めから降参してしまう。
 もうそういうスタンスで生きてます(笑)

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