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【かえつ有明・佐野副校長×roku you代表・下向 対談(後編)】学びの楽しさを体験してもらうためには、おのずとSELが必要に

先日、東京都にある私立・かえつ有明中・高等学校の副校長である佐野和之先生とroku you代表 下向の対談ライブ配信イベントを開催しました。noteではこれまで2回に渡り、対談内容を紹介してきました。最終回の今回は、よりSELについての思いを語り合いました。

こちらの記事は後編です。前編では、佐野先生自身の変容や内面をシェアすることの重要性についてお伝えしました。中編では、かえつ有明中・高等学校のSELについての取り組みについて、生徒たちの内面をシェアするために取り組んだことやその過程での変化についてお伝えしました。

★★3部作 後編★★
今回の記事では、学校や教科の中でSELを扱うことに対する思いをお伝えしていきます。対談動画は下記よりご覧ください。

■SELの土壌は昔からあった

下向:
日本には以前からSELが育まれる土壌がありました。特に保育園や幼稚園では、感情を扱うことは当たり前に行われてきましたよね。しかし、小学校に入ると急に統制的になってしまったり、「学び」が教科学習のみで捉えられてしまったりと、SELの文脈からやや離れていってしまっていると感じています。従来の学校が教科学習が中心であったことや、先生たちに余白がないといったことも大きく影響しているかもしれませんが、学齢が上がっていくうちに感情を扱うことがどんどん少なくなってしまうのです。加えて、中高になると、より統制的でなければいけないと思っている先生も多いと感じています。本来はエモーショナルなことを中心に据えて扱う土壌が日本の教育の中にはあるはずなのに、もったいないですよね。

佐野先生:
そうですね。「感情を大切に対話をしよう」と考えすぎると構えてしまい、難しくなってしまうかもしれません。何気ないやりとりの中で、もう少しお互いに寄り添った話ができるだけで全然変わってくると思うのです。

■カジュアルな対話ができる土壌作り

下向:
ここ1週間くらいで、どのようなカジュアルな会話をしましたか? 印象的なものがあれば教えてください。

佐野先生:
例えば、私は登校時間に「おはよう」と言うために外に出ています。遅れてくる生徒がいた際には「なんで遅れてきたんだ!」と注意する選択肢もありますが、生徒の声を聞くならば「どうしたの?」と理由を尋ねるという選択肢が有効ではないでしょうか。

 先日、遅れてきた生徒に「どうした?」と声をかけると、「遅刻しました」といわれました。「遅刻したのはわかるよ。なにかあったの?」と理由を改めて聞いてみると、ボソボソっと話してくれました。

 理由ではない理由が出てきた時は、同じことをおうむ返しします。そうしたことを繰り返していくと、だんだんと感情が出てくるようになります。さらに、「こんな感じだったの?」と感情のワードをつけて問いかけてみるとそこから話が深まり、より本音が出やすくなるケースもあります。

下向:
そうした接し方は、生徒たちにとってきちんと受け取ってもらえたという心理的安全性につながりますね。生徒の心がホロホロと解けていく感じがイメージできます。ちょっとした日常の会話を工夫する重要性を感じますね。

佐野先生:
おっしゃる通り、こうした日常の会話を続けると変化がみられるようになっていきます。例えば、最初の頃は「おはよう」と声をかけてもスッと通り過ぎていったのが、ボソボソと挨拶を返してくれるようになり、もう少し経つと教員が気付かなくても生徒の方から声をかけてくれるようになります。必要なことは、スパンを長くとることだと思います。SELを導入するのも、人と接するのも、焦らずに継続していくことで気づいたら想定していない変容が起きていることがあると思います。

下向:
「SELは何から始めればいいですか?」「どういう教科に入れたらいいですか?」「SELの時間をつくっても効果をあまり感じないのですが、なぜですか?」と質問されることが多いのですが、どのように答えるか迷います。よく伝えるのは「SELは多面的なアプローチが前提になっていて、授業の時間を設けられていなくても導入はできますし、授業の時間を設けていたとしても結果が出るわけではありません」ということです。この答えに対し、喜ぶ人と落胆する人と混乱する人がいらっしゃる。SELには即効性があるわけでなく、これをすれば絶対にこうなるというセオリーはありません。スモールステップからでよいので、一貫性を持って取り組んでいくことが大事なのです。これがSELの特徴だなと思います。

かえつ有明中学校・高校の対話の様子

■教科の中でのS E L

佐野先生:
教科の中にも感情が動く瞬間はあるはずです。例えば、数学の授業で最初から綺麗な解き方を教える方法と、自分の感情と問題の解き方を結び付けて伝える手法を比較すると、後者の方が印象に残りやすいといいます。「先生も中学生の時にいつも解けなくて悔しくて悔しくてさ」といった話をすることは、苦手意識を持つなどして行き詰まった生徒たちを後押しすることができると思いました。

下向:
そうですよね。問題が解けた瞬間や解けた時、解ける道筋が見えた時の感情などと紐づけられるといいかもしれません。社会や国語も大きく心が動く衝撃的な事実やショックなど、感じることがたくさんあるはずです。SEL的に扱えられることはたくさんありそうですよね。

 例えば、歴史を学ぶ中で、「なぜ悲惨な事態に陥る選択をしてしまったのか」「同じことを繰り返さないためには何が必要か」といったことを投げかけるなど、事実を伝えるだけではなく、感情に働きかけるような対話をすることで学びがより深まるはずです。それこそが歴史を学ぶ意義だとも思います。すでにこうした活動をしている先生もいらっしゃいますよね。

佐野先生:
「SELをどうやって取り入れたらいいのか」ではなく、学びの楽しさを体験させようとすればおのずと授業には入っていくものだと思っています。

■学校管理職としてSEL導入

下向:
学校運営において、SELはどのような価値を持っていると思いますか?

佐野先生:
SELが大事にしているノンジャッジメンタルな関係性を築くことができたら、学校運営やマネジメントの効果や効率はすごく高まりますよね。「こう思われたらどうしよう」「こんなことを言って否定されたらどうしよう」と考えてしまって結論を出せないままでいるほど非効率なことはありません。

 例えば、教員間で何か課題があって解決しなければいけない時も、批判や否定されるかもしれないと恐れがあって話を切り出せなければ、なかなか解決につながりません。クラスの中でも同様で、点数がとれる・とれないだけの指標でしかみられてこなければ、安心して自分らしく学びを掘り下げることはできないでしょう。一部の生徒は気負わず勉強に没頭できるかもしれませんが、それ以外の子たちは「『こんなこともわからないの』と思われたらどうしよう」といった余計な不安を抱えながら授業を受けることにもなりかねません。このような事態は、絶対に非効率だと思います。

下向:
心患っていることに、エネルギーは割かれるものです。気掛かりなことがあれば、どんどん心が閉じていって、入ってくるものも入らないといったこともあるでしょう。こうした事態は、確かにすごく効率が悪いです。

佐野先生:
また、チェンジメーカーの人は非難されて傷つくことも少なくないじゃないですか。自分自身がSELを体得することで自分で自分を癒せるのはすごく大きな意義があるだろうと思います。一方で、自分だけが変わることには限界があるので、組織的に変わっていかないといけないとも思っています。キーになる人、つまり現場であれば管理職の先生などとチームを組んで変革を促していくことは必要だと思います。

 これは僕の経験ですが、心のどこかで「なんでわからないんだ」と思っていると相手には絶対伝わります。自分自身が内面に自覚的であることではじめて相手の内面に意識を向けることができます。新たな取り組みをしようと考えたとしても、相手への理解がないままいくらプレゼンテーションをしてもなかなか受け取ってはもらえません。まずは、相手が何を大事にしているのかをきちんと受け止めるプロセスが大事。その結果、こちらに関心を持ってくれて、チームになっていくことができるのです。

下向:
本当にそう思います。「この人は自分と違う」「自分の言っていることは絶対にわからない」「わかりようがない」と諦めてしまうとそこで対立が生まれていくと思います。その人の背景、価値観に興味を持って深めてみることが新たな関係性やチームが生まれていく第一歩です。夫婦や家族にも言えることですが、ここが一番難しいことなのです。

対談の様子

■まとめ

「日本でもSELの夜明けが来ているんですか?」とよく質問されます。今回の対談でも、そういったコメントをくださった方がいらっしゃいました。7年前から日本の中でSELを語っている身としては、明らかに注目度が高まっていると感じます。心と心のつながりが減ったという課題が顕在化してきたことや、探究学習やプロジェクト型の学びが、SELの基盤なしには機能しないと多くの人たちが気づいてきていることも挙げられるでしょう。

かえつ有明は "ええ感じ" の雰囲気の学校で、SELの夜明けの先にはこの景色が待っているということを実感させてくださる学校です。そのため、日本の超最先端事例として多くの先生方にも是非知っていただきたいと思っています。これからも、心から応援しています!

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