【かえつ有明・佐野副校長×roku you代表・下向 対談(中編)】SELの導入がスムーズな学校の傾向とは?
こちらの記事は中編です。前編では同校で感情を大切にする関係性づくりに尽力されている副校長 佐野先生が内面に目を向け始めた背景やプロセスをお伝えしました。
★★3部作 中編★★
今回の記事では、かえつ有明中・高等学校のSELについての取り組みについて取り上げます。生徒たちが内面をシェアできるようにするために取り組んだことや、その中で見えてきた変容についてお伝えします。対談動画は下記よりご覧ください。
■学校の取り組み
かえつ有明中・高等学校の事例を掘り下げる
下向:
私はピーターセンゲさんとダニエルゴールマンさんが書かれた『21世紀の教育』(ダイヤモンド社)の翻訳版の解説を私が書かせてもらっています。
本書の最後には、「SELによる学校現場の変容」を掲載しています。佐野先生がおっしゃっていた、生徒たちの内面を共有してもらうことを大切にしていたら、どんどんやりたいことやアイデアが出てくるようになったという変容はまさにこの図と重なると感じました。(詳細は前編を参照)
この「SELによる成果、変容」の図と照らし合わせながらお話ししたいと思います。生徒たちに内面にあるものを共有してもらうことを大切にしていたら、どんどんやりたいことやアイデアが出てくるようになったということは、下記のような変容が起きていったということでしょう。
改めて、感情的な動きを大事にし、一人ひとりがあるがままにいることが担保される学びの場を実現できたときに、どのような成果や変容が起きると思いますか?
佐野先生:
本校に異動した当初、高校に新しいクラス(プロジェクト科)をつくる準備段階でした。教員の中で新クラスのコンセプト作りのコアメンバーが10人いました。その10人でその変容のプロセスを辿りたいという思いから合宿をし、自分たちの内側にあるドロドロとした感情を共有したり弱さをさらけ出したりして、お互いにより信頼関係を築くことができました。その後、3ヶ月程集中して議論をし、コンセプトを練って新しいクラスをつくっていきました。
【参考】かえつ有明中・高等学校のお取り組み
下向:
最初に先生方が集まって、内面を吐露し合い、心理的安全性が醸成された状態で具体的な議論に入っていったのですね。
佐野先生:
そうですね。生徒たちに対しても、このSELによる変容のプロセスを大事にしています。まずは入学のオリエンテーションから、これまでに社会や家庭から刷り込まれてきた「こうあるべき」「こうであらねばならない」といった重荷を少しずつ剥いでいき、自分が感じていることや大事に思っていることが見えなくなっていたことに気づけるように促します。この仲間との間でならば本来の自分を出してもいいし、非難されることなく受け止めてもらえると実感してもらうことを重視します。
そうやって受け止めあった中から、「このメンバーでどのようなプロジェクトをつくっていこうか」といった話が出てくるようになります。「主体的で対話的で深い学び」とよく言いますが、現在はそれが生徒たちだけでできるクラスになってきていると感じます。
下向:
簡潔にご説明いただきましたが、簡単なプロセスではなかったのではないかと思います。生徒たちが入学してきた段階で、どのようなお話をすることで、変容のプロセスをスタートさせているのでしょうか。
佐野先生:
現在は先輩もいますし、新クラスの認知も高まったので入学前にコンセプトを理解している子が増えましたが、最初の3年間程は入ってからどういうクラスなのかを知っていくような状態でした。
入学前の説明会では「効率よく大学進学のためのお勉強をしてもらうクラスではないですよ」と伝えています。しかし、以前はそこまで理解せずに入学し、「なんで教えてくれないんですか」「対話ってなんなんですか」と言われることもありました。そのため、最初のオリエンテーションで「自身との対話」や他者の言葉の傾聴、対話といったNVC(Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション)を丁寧に行っていきます。
下向:
具体的にどのような取り組みをなさっていますか。
佐野先生:
まず3人1組で円になって、真ん中にニーズカードを置き、互いが気になっていることを「ただ聴く」練習をします。聴いている中で湧き上がってきた感情は一旦置いておいて、「自分にはそういう気持ちがあるんだ」と自覚してみようと伝えます。こうした時間を定期的に設けていくと1学期の間でだんだんと傾聴について理解をしていくようになります。
高校1年生の1学期は土台を築いていく時間です。対話や内面にある見えないものを見て、繋がれるようになることを徹底的に筋トレするような期間と位置付けています。
並行して、ちょっと変わった生き方をしている方との出会いをできるだけつくります。例えば、依梨さんもそのお一人ですね。「なぜその選択をしたのか」と質問したくなるような生き方をしている人をゲストに招いて、多様な選択肢を持って生きるヒントにしてもらいます。そうすると、自分が大事にしているものに自覚的になった時に道を選択しやすくなりますよね。
さらに、夏休みには「今まで行ったことのない場所に行く、会ったことのない人に話を聞くなどの越境の体験をする」という課題を出し、2学期にその体験をみんなでシェアするといった取り組みもしています。そうすると、面白いことを始める生徒が出てきます。学校外の人とコラボレーションしたり、面白そうな人に会いに行ったりと、だんだんと勝手にプロジェクトが立ち上がっていく時期になっていくのです。
下向:
人と出会うということを入口にしてマイ感(主体性)が掘り起こされてアクションが生まれていくのが御校の1年目なのですね。まずは小さく動かせることからでよいので、どんどんプロジェクトが立ち上がっていくことが重要だと思いました。
私たちも学校のPBLや探究学習の伴走をさせていただくことが多いのですが、その基盤にSELを置いています。佐野先生がお話ししてくださったように、自分の価値観やアクションした時にワクワクすることに気づける筋肉を育てていないと、探究のテーマをなかなか深めていくことができません。だからこそ、SELを基盤とし、そこからプロジェクトが育っていくという流れをつくっています。
■うまくいっている学校のポイントとは?
佐野先生:
依梨さんが全国の学校で関わっている中で、SELがスムーズに導入できていたりうまくPBLがうまく回っていたりする学校の共通項はありますか?
下向:
うまく導入されてい学校の共通項は、端的にいうと、”なんかええ感じ”の雰囲気があるというです。この“なんかええ感じ”は、「心理的安全性の高さ」とも言い換えられるかもしれません。それをさらに因数分解していくと、あいさつが多い、笑顔の人の方が多い、ポジティブな言葉に溢れているといったことがいえます。逆にいうと、PBLなどをうまくいかせようと思ったら、まずは雰囲気をよくするというスモールステップを踏むことが大切なのかもしれません。
例えば、沖縄の学校で、「ありがとう」を先生から生徒に言っていこうと取り組んだ学校がありました。新型コロナウイルス感染症蔓延の影響で沖縄の学校は休校が多く、行事が中止になったり、部活動も年間の1/3ほどできなかったりしました。どうしても我慢が強いられている中で、「開催できたイベントは全力で楽しんでくれてありがとう」というポスターを校内に貼ったんです。この取り組みの後、学校の雰囲気が劇的に変わったと感じたそうです。生徒たちがPBL的な学びや、内面にあるものをシェアする深度が一気に深くなった感覚があったそうです。この取り組みから、 "なんかええ感じ" の雰囲気を学校で作っていくことが大事なのだなと改めて実感しています。
■「ええ雰囲気」にするためにしていることとは
下向:
サラッとお話しましたが、 "ええ感じ"の雰囲気 を作ることは簡単なことではありません。かえつ有明に伺った際に、生徒と先生との間で日常的にコーヒーチャットのようなものが繰り広げられているなど、とても "ええ感じ"の雰囲気 だと思ったのですが、意図的に行っていることはありますか?
佐野先生:
最近はあまり意識していませんが、以前は会議際にチェックインを行ったり、NVCの勉強会を行ったりしていました。また、誰かが何かを学んできた際には共有して広げていくことも大事していました。
また、新しい取り組みを実施する際にはビデオ撮影し、すくにアーカイブにあげます。そうするとみんなが観られるようになるので、横展開がしやすくなるのです。
下向:
ご多忙でありながら、先生たちの「余白」をすごく感じました。「何かをやってみよう」という心の余裕があるというか。そういった先生方の動ける余地をつくっていくマネジメントも、SELの導入において重要だと感じています。
■まとめ
今回の記事では、かえつ有明中・高等学校のSELについての取り組みをご紹介いただき、さらにそれによって引き起こされた変容をお伝えしました。SELがスムーズに導入できている学校の共通項は、”なんかええ感じ”の雰囲気があること。その雰囲気をつくっていくためには"余白"が大事なポイントなのだと思いました。
対談の続きは、後編でお届けします。最終回では、学校や教科の中でSELを扱うことに対する思いをお伝えします。
後編はこちら
公開までお待ちください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?