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商品の市場は企業と消費者が創り出す

[要旨]

研究者の間では、商品の市場は、すでに存在するものという前提でしばしば語られますが、実際には、企業の従業員と、そのマーケティング活動、顧客とその購買行動などが個々にあるだけであり、関係する人々のやりとりを通して社会的に構築されていくものです。

[本文]

今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、人が商品を購入するときは、理性ではなく感情によって決めていると考えられているということを説明しました。これに続いて、鈴木さんは、制度としての自社商品の市場は、所与のものとして存在するのではなく、マーケティング活動を行う中でつくり出されていくものであるということをご説明しておられます。

「管理マーケティングでは、市場は確固たる実在であるかのように実体視します。市場は調査をすれば、客観的に発見できるものとされます。しかし、実際には、企業の従業員と、そのマーケティング活動、顧客とその購買行動などが個々にあるだけです。市場そのものを実際に見たものは誰ひとりとしていないでしょう。いまや年中行事のひとつとなっている、クリスマスケーキ市場は、明治時代に横浜の不二家が外国人向けに製造したのが始まりです。

1950年代に各社の大量生産を契機に、急速に普及し、手作りやカップル向けなども、新聞や雑誌などで話題となり、『クリスマスにケーキ』が定着しました。さまざまな企業やメディアによる打ち手が連なることによって、重層的、かつ、動態的に構築されていったのです。バレンタイン・チョコレート市場も同様です。大正時代に、神戸のモロゾフが売り出したのが初めです。

1950年代からの各社が、次々に発売するようになり、1970年代になって、ようやくバレンタインデーの宣伝が功を奏して定着しました。チョコレート会社がおもに宣伝し、顧客に女性が多かったことから、女性から愛を告白し、チョコレートをプレゼントするという日本独特のコンセプトが固まり、浸透していったのです」(229ページ)

日本では、クリスマス、バレンタインデーだけでなく、いまでは、ホワイトデー、ハロウィン、お盆玉、孫の日、恵方巻など、新たなイベントが創り出され、それに対応して新たな商品市場も創り出されているということは、改めて私が述べるまでもありません。そして、私が感じることは、これらのイベントは、日本では深く受け入れられているということです。

特に、最近の、ハロウィンは、若者の間で大きな盛り上がりをみせており、商品を販売する側の仕掛けに乗せられたというよりも、もともとなんらかのイベントを求めていた人たちの需要にうまく応えることで成功したという感じがします。したがって、これからは、消費者の潜在的なニーズに応える働きかけは、奏功する可能性が高いのではないかと、私は考えています。

2023/3/21 No.2288

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