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シンガーソングライター唯(umbrella)2nd MiNi ALBUM【iroha】全曲解説インタビュー

空間系オルタナティブバンドと称して、関西を中心に活動するヴィジュアル系ロックバンド・umbrella(アンブレラ)。そのGt.&Vo.でありシンガーソングライターでもあるが、ソロ3作目となる2nd MiNi ALBUM【iroha】をリリースした。

オルタナティブロックを中心に、さまざまなジャンルの楽曲を手がけてきた彼が、「カタログになる1枚にしたい」と満を持してリリースした本作。唯が描く世界観やメッセージが驚くほど細部まで詰め込まれ、聴く人の心を柔和に染め上げる1枚になっている。

今回の全曲解説では、それぞれの曲に込められた想いや制作背景を語ってもらった。

▼前回記事はこちらから


「ライブ感のあるCD」を目指して

ーー各楽曲の解説の前に、この曲順を決めた経緯について教えてください。

唯:今回は1曲目と7曲目をどれにするかだけ、最初から決めていました。私といえばオルタナティブなので、グランジ色とギターの歪みが強い“「ヒカリ」とは” を1曲目にして、最後はバラードの“熱病”を使おうと。

ーー曲順には毎回かなりこだわっているとお聞きしましたが……

唯:そうなんですよ。たとえば、フルアルバムなら1曲目にSEがあって、2曲目に表題曲になるようなキラーチューンがくるじゃないですか。今回はそれが戯言たわごとでした。“戯言”は私が完全に振り切った曲なので、これは絶対に2曲目じゃないとダメだなって。

ーー曲順を決めるときに意識しているポイントって何でしょうか。

唯:作る人が同じだと、どうしても曲の作風って似てしまうじゃないですか。だからフレーズが似ているものを、連ねたくないんです。それを意識しながら考えていたら、かっちりハマったのがこの曲順でした。

ーーたしかに。何度も聴きましたが、これでかっちりハマっているなと感じました。

唯:ここから移動できなさそうじゃない? タイム感、勢い、フレーズ。どれをとっても絶妙なバランスだと思います。どれか1曲が入れ替わると、アルバム全体の雰囲気がだいぶ変わるんですよね。“「ヒカリ」とは”を最後にしてもおかしいし、ラストが“戯言”なのも違う。ライブでやるときのセットリストとしても間違いないと思います。

夢にたどり着いた先にあるものは?――01.「ヒカリ」とは

ーー1曲目の“「ヒカリ」とは”は、明るく感じるようで実は少し暗い世界観ですよね。

唯:自分の目標や夢にたどり着いたあとのことって、みんな考えているのかな。そう考えていたらできた曲です。私にとっては、夢が叶ったあとって、目標がなくなるから闇なんですよ。サビに「光とはきっと終わり」って歌詞があるように、たどり着いた先はきっと終わりだけど、あなたはどういう気分なの?って。
でも、歌詞には救いをひとつ残そうと決めているので……自分が目標として決めたことだから、「光は自分なんだよ」って意味の言葉を、最後に唱えています。間違えてはいけないのは自分だし、自分次第やでって。

もしあの曲の主人公が、違う選択をしていたら?――02.戯言

「戯言」歌詞ページ

ーー2曲目の“戯言”は、歌詞はシニカルでありながら、小説を読むと息苦しさの先に希望が見えるような世界観になっているなと感じました。

唯:この曲は、【本音】(1st.ミニアルバム)のスピンオフなんです。【本音】はストーリー仕立てのアルバムで、主人公の高校時代から話が始まり、社会人になったその先までを描きました。その中に“不揃いな仮面”という曲があって、そのパラレルワールドが今回の“戯言“です。
“不揃いな仮面”は、社会人生活を送るなかで主人公が人の言いなりになってしまって、仮面を被るようになっちゃったって曲なんですけど。

唯:もし主人公が開き直っていたら、こうなったかもしれない。それが“戯言”の世界です。だから歌詞に書き捨てたようなセリフがあったり、“不揃いな仮面”を匂わせる言葉を入れています。

ーー前作のパラレルワールドって珍しい設定ですね。

唯:私、CD1枚で完結して「はい、終わり」っていうのがあんまり好きじゃなくて。ゲームでは続編が出るのに、なんで曲には続編がないんだろうと。だから前の作品と世界観がつながっていたり、延長線上のストーリーがあったりしても面白いんじゃないかと思ったんです。

リアルな情緒不安定さを曲で表現――03.切り刻んだ日常

ーー“切り刻んだ日常”では病んでいる女性の気持ちを見事に表現されていて、「なんで分かるの!?」とびっくりしました(笑)。

唯:この曲は私自身の空気感というか、世界観ではないんですけど。私自身メンヘラな一面も結構あるので、「もし自分が女やったら、めっちゃメンヘラで人に依存する体質やろな」って考えながら作詞しました。

唯:Aメロの歌詞には、「死んだような生き方じゃなくて、ほんまに生きている生き方をしてくれよ」って気持ちを込めています。人それぞれ、精神的に死んでいた時期ってあるじゃないですか。私自身も、いじめに遭ってつらかった時期を経験したし。そういう心が死んだ生き方をしていた頃よりは、生きてほしい。
曲調が明るいから、パッと聴くと重く感じないだろうけど。私、明るい曲に暗いの入れるの好きなんですよ(笑)。

ーー歌詞の終わり方もいいですよね。

唯:でしょ。自分には分かっていない良さが、人には見えているよって感じにしたくて。情緒不安定でどうしようもないのに、最後には「あれ? この子家庭的でけっこうイイ感じじゃない?」って意外なところを見せています。
手首を刻みすぎて、血で何も見えなくなるまで荒れたあと、精神がいちばんフラットに戻る様子を最後に描きたかったんです。

文字を重ね合わせて作った模様。情緒不安定さを表している。

唯:情緒不安定を曲でアピールしてみたので、歌詞に合わせて曲も転調しています。転調って上がっていくのが一般的なんですけど、この曲では下げてから普通に戻しています。

星のように散らばる世界――04.ミルクティーフロート

ーー“ミルクティーフロート”からは、白昼夢のようなイメージを受け取りました。

唯:私の中ではあまり出してこなかった、ジャジーというかオシャレな感じで作りました。じつは天国に行く曲なんですよ。死んだ人が電車に乗っていて、天国に向かう車窓から、いろんなものが断片的に見える。曲の世界観を考えるとき、全部の世界がジオラマみたいに、ぽつぽつと星のように散らばっているイメージで作りました。
ただそれを小説家の方に話したら、「それって宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』じゃない?」って言われて。私、あんまり本を読まないので知らなかったんです。

ーー意図せず宮沢賢治になってしまったと(笑)。

唯:ほんまにビックリしました(笑)。読んだこともなかったし、まったくの偶然です。小説家さんが「宮沢賢治知らんの!?」って引いていましたね。ほんまに知らなかったから、「ああ私には賢治のイズムがあったのね」って勝手に喜びました(笑)。

立ち止まる勇気と心の洗濯をーー05.シャボン

ーー5曲目の“シャボン”は前半と後半で雰囲気がガラリと変わる曲ですよね。

唯:この曲は、「振り返れない人たち」へ向けた曲です。今の世の中って、時間に追われて急いでいる人が多いじゃないですか。ほんまは一回立ち止まって、自分が来た道を振り返って落ち着きたい。けど、そんな時間もないし、「振り向いたら終わりやな」って迷いもある。
でも実際に立ち止まって振り返ってみたら、応援してくれている人たちがたくさんいるよって伝えたかったんです。

ーー立ち止まったら終わりという感覚は、いろんな人が抱えている気がします。

唯:私自身も、歳を重ねていくにつれて、自分の目標が苦しくなるときがあるんですよね。夢に向かって走るなんて、綺麗事じゃないし、楽な仕事でもないから。
けど、この歳になって、「一回立ち止まってもいいんちゃうかな」って分かるようになって。落ち着いたときにすごく不安はあるかもしれないけど、一回立ち止まっても大丈夫やでって、何とか伝えられないかなと。

唯:だからこの曲は後半のサビがまったく違うし、メロディーも変えました。前半で気持ち的に汚れていたものを、最後にさっぱりスッキリさせる。シャボンって言葉には「石鹸」と「シャボン玉」の意味があるから、ダブルミーニング的でいいんじゃないかなって。自分が歌っていて前向きになりたいって気持ちも、無意識にあったんでしょうけど。ドラマティックに出来たと思います。

「虚勢を張って僕は毎日もがいている」――06.Bluff

ーー6曲目の“Bluff”は、年明けに入院された際に作られたそうですね。

唯:その時点でアルバムに入れる曲は大体決まっていたんですが、どうしてもこの曲を入れなきゃって思った出来事が起こって。去年の12月に、私の大事なバンド仲間が亡くなってしまったんですよ。

唯:悲しかったけど、すごく虚勢を張ってしまって、正直泣けなかった。音楽を続けていると、仲間が亡くなることが増えてくるんですよね。病気だったり、事故だったり。そういうとき、いつもタイミングが悪くて、毎回お葬式に行けないんです。今回も入院が重なって行けなかった。だから自分の中で負い目というか、苦しくて。「私、すげー嫌なヤツやな」って。だからと言って、申し訳ないって言い続けられないし。

唯:それに、亡くなった人たちのメンバーが泣いているのに、私がそれ以上に泣くのもどうかなって思ってしまうんですよ。「あいつらしいんじゃない?」ってできるだけ明るく取り繕っては、あとあと虚無になってしまう。
父が亡くなったときも泣けへんかったから、そうやって強がったことが何度もあったなと。そう振り返っていたら出来上がった曲でした。だからタイトルがBluff(虚勢)。作りながら、自分で鳥肌が立っていました。

ーー鳥肌が立ったとは?

唯:こんなに素直な歌詞が書けたんだなって。歌詞って、割と取り繕って書くじゃないですか。自分が思ったことを、うまいこと美化したり、比喩したり。“Bluff”に関しては、素直に書けたなぁと。素直に歌詞ができるときって、曲も素直に出来るから、コードもすごく単調。「こんな簡単な曲、まだ作れるんや」って自分でびっくりしました。

唯:やっぱり長いこと音楽やってたら、単調なコードを嫌うようになるんですよ。どんどん難解になっていって、フレーズも尖っていって、凝り固まったものが出来上がっていく。シンプルなものができなくなってくるんですよね、怖くなって。それを、人が素直になるとここまでシンプルになるんやなって。だから“Bluff“には思い入れがあります。

「すれ違う言葉に含んでいた救いは届かない」――07.熱病

ーー“熱病”はアルバムを締めくくるにふさわしい、暗くて美しいバラードですね。

唯:絶対に実らない、叶わない恋愛をテーマにしたドラマからアイデアを得て作りました。その作品が、最終的に叶わへんし、お互いのこともあるから別れましょうってものだったので、「ああ叶わんものもあるんやな。すごい世界観があるんやな」って思って。

ロゴの点を繋げることで、「離れられない」様子を表現

唯:恋愛だけじゃなくて、何かに燃え上がるときって熱を発するじゃないですか。くっつきあったり、執着したり、依存したり、病的な何かがそこにある。それを考えたら、もはや病やなって。だから熱のある病で、熱病。

ーー【iroha】のブックレット小説では猫がところどころに出てきますが、“熱病“のエピソードを読んだときに「そう繋がるの!?」と驚きました。

唯:小説の共通点のひとつが、猫です。猫が繰り出すものがあるんですよ……! ぜひCDを手に取って、耳で聴いて目で見て楽しんでほしいです。


<Interview & Text:nao kuramoto>

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唯 2nd Mini Album【iroha】
2023年4月24日(月)発売

<収録曲>
01.「ヒカリ」とは
02.戯言
03.切り刻んだ日常
04.ミルクティーフロート
05.シャボン 
06.Bluff
07.熱病

7曲収録
RJUR-003 ¥4,000+税
20Pブックレット仕様(歌詞+各楽曲の短編小説)

<販売>
・路地裏堂Web Store(https://rojiurado.wixsite.com/rojiurado/store)
・ソロ公演時 会場内物販
・umbrella 会場内物販

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■umbrella 「solitude」Release ONE-MAN TOUR

【一般チケット発売中】
11月17日大阪 https://eplus.jp/sf/detail/3930630001-P0030001
11月21日新潟 https://eplus.jp/sf/detail/3930210001-P0030001
11月24日名古屋 https://eplus.jp/sf/detail/3930080001-P0030001
12月02日小倉 https://eplus.jp/sf/detail/3932390001-P0030001
12月03日岡山 https://eplus.jp/sf/detail/3935460001-P0030001
12月08日東京 https://eplus.jp/sf/detail/3932000001-P0030001

前売り3600円/当日4100円(※ドリンク代別)


■『たまゆいクリスマス会2023』
2023年12月12日(火)/大阪日本橋BAR Guild

出演:TAMA(CASCADE)
   唯(umbrella)

開演:①15:10~
   ②18:20~
※各回内容が異なります

チケット:11/21(火)22:00~下記サイトにて予約開始
https://tamahanten.stores.jp

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