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ことえ|ロイ未来
2024年11月10日 12:54
銭湯に行こうと思ったのは、試合に負けたからだ。今日も勝てなかった。まあでも試合に出れただけ、良かったと思えばいいのだろうか。高校に入学してもうすぐ1年経つ。未だに勝てた試合が一回もなかった。右肩にやけに食い込むように重さを感じるのは剣道の道具だった。大きなソメイヨシノの木。それが銭湯「よしの湯」のめじるしだ。満開を迎え、店先からこぼれる光に照らされた桜の木は、夜風に吹かれ、わずかな花
2024年10月14日 20:44
この辺りでは見たことがないバスだ。車体の色が水色と濃い青で上下2色に色分けされている。佐々木拓也はバス停に停まった車体に貼られた「ワンマン」の少し錆びた白いプレートを見ながらそう思った。もうすぐ5歳になる息子の健太が見たら喜ぶかもしれない。いや、あの子は乗り物より好きなものがある。「ダーー」小さい頃の息子の声を思い出して拓也は頬を緩めた。健太が初めて話した言葉は「ダー」だった。聞いたとき