小説・小丸との日々(第1話・鬱病)

「なんだっ、その口の利き方は、おらっ、なんとか言え、舐めてんのか。コラッ」
「はい、申し訳ありません」
「あなたのとこの会社はこういうことを平気でなさるの」
「申し訳ありません。善処してまいります」
「誠意を感じないわ。もっとちゃんと謝って下さらない?」
「はい、申し訳ありません。もう二度とこういったことのないように・・」
 私の仕事はテレフォンアポインター。日々、怒鳴られ、嫌味を言われ、クソみそに言われる日々。もちろん今主流の非正規だ。しかも、外部委託。今契約するこの会社には何の所縁も関係もない。
「はああ、今月も厳しいなぁ」
 私の賃金はどこかの誰かにピンハネされ、働けど働けどまったく暮らしは楽にならなかった。
「このままではいかん」
 私は思った。
「あなたも一攫千金」
 ネットで株式投資の広告を見た。
「よしっ、やったるぜ」
 株に手を出した。
「あああっ」
 大損した。
「なんだよ。上場廃止ってぇ~」 
 私は叫んだ。私の買った株の会社は突然不祥事が発覚し、上場廃止になった。
「なんだ、その棒読みのあやまり方は」
「はい、まことに申し訳ありません」
 相変わらず、クレーム対応の日々が続いた。
「君かわいいね。お尻がいいよ」
 元受けの上司からセクハラを受け始めた。
「あなた、頭は大丈夫?こんなこともできないの?」
 直属の上司にパワハラを受け始めた。
「なんじゃ?」
 朝、体が動かなくなった。
「何もできない・・」
 何もできなくなった。
「鬱病ですね」
 医者が言った。
「・・・」
 鬱病になった。
「あの・・、会社の方しばらく休ませていただきたいんですが・・」
 会社に行けなくなった。
「まだ来られない?」
「はい・・、まだちょっと・・」
 会社を二か月休んだ。
「いつ頃ならこれるの?」
「まだちょっと・・、先のことは分からないです・・、すみません」
「そう、じゃあ、まあ、とりあえず、あなたのポジションは白紙ということで」
「はい・・、しょうがないですね」
 会社を事実上クビになった。
「・・・」
 貯金はあと、生活費三か月分しかなかった。
「困った・・」
 困ってしまった。私には頼れる実家も兄弟も親戚もいなかった。
「・・・」
 私はさして高くもない、ただでさえギリギリだった人生を転げ落ちた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?