おしゃれでゴージャス、でもちょっとしみったれてる和製クライム・コメディ『恋と太陽とギャング』
恋と太陽とギャング(1962/日/石井輝男)
網走番外地シリーズや、つげ義春作品の映画化でも有名な石井輝男監督作品。ギャングシリーズの2作目
ルーレットのアップから始まり、国際色豊かなカジノの客の様子。そこに銃声が鳴り、飛び込んできたのは高倉健演じる石浜。愚連隊あがりで網走帰りという経歴を持ちます。
石浜は妻の典子の手を取って外へ。そこで一気に音楽と銃声の音が上がる。ブラスで景気よく始まり、ピアノソロの上で銃がバッキュンバッキュン鳴る中、走って逃げる石浜と典子、そしてふたりを追う男たち。
まごうことなきおしゃれなオープニング。ルパン三世の世界観だね! 劇伴を担当する八木正夫は渡辺貞夫らと共に日本のジャズ黎明期に活躍したピアニスト。マジシャレとる!
実際、これはスタイリッシュ・クライム・コメディとしては相当優秀…いや傑作では…と震えています。
さて、石浜と妻の典子は3年ぶりの再会。物影で盛り上がろうかという時に現れるお邪魔虫が、タキシードにファー付きの白いロングコートを羽織った男・常田(丹波哲郎)。石浜の暴れる姿を見て「一緒に賭場荒らしやんない?」とスカウトしてきます。
最初は取り合わない石浜ですが、常田も網走帰りと聞いて一目置く様子。網走って単に最も古い監獄だというだけでなく、どうしようもない悪が行くとこなのか。
衣装も音楽も超オシャレな映画ですが、住宅事情はばっちり日本。高度成長期ですが、家の描写がだいぶしみったれていて、そこも面白いというか物悲しいというか、狙ってないかもしれないけれど良いスパイスになっています。
典子曰く「デラックスなところ」という住居は一間のアパート。タキシード姿でギュウギュウになってコップ酒をくらう石浜と典子と典子の母・おまさ(清川虹子)。典子は一刻も早く盛り上がりたいのに、母ちゃんがそこで寝てるしどうすんのかなと思ったら、押入れがベッドになってて一応個室できてる笑! それを見て感心する健さんが可愛いわ。そして期待通り、母ちゃんがトイレと間違えて押し入れを開けて邪魔してくる定番のバカバカしさも微笑ましい。
賭場荒らしの計画が動き始めるのは次の日。この映画の公開前年に竣工したばかりの東京パレスホテルのロビーで鉢合うところから。清川虹子が何かするわけでもないのに、眼光鋭くて只者じゃない感(満州で色々やった女傑みたいですね)ですが、怯まず「組みませんか」と誘う常田の不敵な態度。ここのやり取りはなかなか見応えがあります。
主役の石浜は仲間集めから実行のめんどくさいとこを担う中心人物ではありますが、おっかねえ義母と図々しい男とのペースに終始飲まれちゃってる感じ。妻の典子も気が強くて、常田のハッタリを見抜いて指摘します。みんな悪くてかっこいいわ。健さんタジタジね。
ハッタリ野郎と典子に見抜かれた常田は、資金調達担当。もちろん、本当は全然お金持ってません。しかし、襲う予定の賭場となるナイトクラブにすでに情婦のルミをダンサーとして潜り込ませる算段済みなど用意は周到。お金もルミになんとかさせます。やるねえ、ヒモだねえ。
ちなみにルミのアパートもベッドがあるなど石浜家よりは少しデラックスだけど、木のビーズの暖簾があったり、昭和がすごい。そこにロングコートの丹波哲郎が入ってくるの、違和感しかない。
ここの常田はおマサとやり合ってる時とは別の顔、ルミに甘えてお金を引き出さねばなりません。
ルミの肩を揉んであげようとする時に一瞬出るすっとぼけた高い声、酒でむせる姿、長身を折り曲げてブランコに乗る姿…どこまで本気でどこまで本気かわからないけど、なんでそんなに可愛いの!(絶叫)
影のあるニヒルな悪役を多く担った丹波哲郎ですが、ご本人は適当で明るい不思議ちゃんだった。かつてトーク番組で仲代達也が丹波哲郎のエピソードを大喜びで話していたの忘れられないもんなあ。憎めない人たらしの面が活きるんだね。
ルミ役の三原葉子さんも可愛いですね。はるな愛さんに似てるかも。ルミの軽やかなコケティッシュさがこの映画の空気作りにかなり貢献していると思いますね。不二子ほど強欲ではなく、程よく常田を立ててはいるけど、油断ならぬ感じ。
さて、常田が女に甘えて金の調達を無心してる頃、健さん演じる石浜は仲間集めへ。
実はわたし、こういう仲間集めシーンが苦手で、仲間を覚える前に本編突入してしまい訳がわからなくなることがあります。オーシャンズとか人数多過ぎるんだよ…まあでもこの人数なら大丈夫。
スカウトしたのはギャンブルでこさえた借金まみれな自動車工の衆田(江原真二郎)と興行主の河岸(曽根晴美)、電気工の亀さん(由利徹)。
仲間集めに奔走する石浜、資金調達のためにマカオのおっさんに会うルミ、それぞれの思惑が絡んで、一枚岩ではない寄せ集めギャングらしい不穏な空気もありつつ、役者は揃った。あとは実行するだけ!
ここからさらに展開あって面白いので、ご覧になってお楽しみいただきたい。若くて可愛くて暑苦しい千葉ちゃんも出てくるよ。
千葉ちゃんが気持ち悪い笑い方をする衆田にそれを指摘する時「人間、環境が変われば人相も態度もかわってくらぁ」と答える切ないシーンも心に残ります。
この映画、全体的に小気味良いテンポで進むクライムコメディではあるんだけど、ちょいちょいこういう、人の道から外れた者の哀愁があるんだよな。このコントラストが美しい。
しかし江原真二郎は、情けない顔から薄気味悪い企み顔への変化、それを隠す真顔の演じ分けが素晴らしい。ニューフェイスとかじゃなくて大部屋からの叩き上げで主役張れるまでになった実力者なんだよね、この方。
この映画を面白くしてるのは前半は清川虹子、後半は江原真二郎なの間違いない。
パレスホテルといい健さんが曽根晴美を口説くシーンの東京文化会館といい、今も残る60年前の東京が見られるのも魅力です。しかし、文化会館てバレエ観に行くとこなイメージだったんだけどな…
ファッション、スポーツカー、興味のある方には機関銃等の銃火器ラインナップも楽しいんじゃないだろうか。これは気軽に見始めた割に儲けものな面白さでした。
60年代のおしゃれ邦画といえば『月曜日のユカ』が有名ですが、ヌーヴェルヴァーグみがある中平康の作風より、アメリカ寄りのゴージャスな魅力の1本です。
おまけ
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